Himalayan Cedar

【展覧会】
切戸口から見つめる景色
木坂美生展

文:高橋咲子(毎日新聞記者)

現代美術

 写真という平面のなかで、表現された世界も一見平面的だ。だが、のぞき込めば、画面の隅々までがざわめきに満ち、手招してくる。第30回五島記念文化賞新人賞を受賞した美術家、木坂美生(きさかみお)さん(42)が差し出す世界を、もっとのぞいてみたくなる。

 同文化賞の海外研修帰国記念展「On the Border」が、東京・銀座のギャラリーカメリア(奥野ビル502号)と、東京・MA2Gallery(03・3444・1133)で開催されている。銀座は古いビル、恵比寿は白い壁のギャラリー。対照的だが、特色ある空間だ。

ギャラリーカメリアでの展示風景=高橋咲子撮影

 展示空間から、どんな作品を置きたいか頭に描くという。大きさと漠然としたイメージ、それを見つけるために「あてどなく歩く」。デジタルカメラでは何度でも撮影できるし、加工も容易だ。だが、求める光景が見つかれば迷いがない。ほとんど1回しか撮影しないし、トリミングや補正もしない。木坂さんいわく、撮影するのは「絵のようになっている」場だという。よく聞けば、「手を加える余地のないもの、仕上がっているものを写し取っている」という感覚なのだという。

 ギャラリーカメリアでは、どこか湿度を感じさせる作品が並ぶ。めくれた畳に一筋の光が差す、新潟・佐渡で撮った「The Hole in the Roof」。上気したほおのような赤茶色の壁(「Under Pass」)、ヒマラヤスギの太い幹(「Himalayan Cedar」)など。どれも中心や主役は存在せず、ときに全体の様子が分からないまま対象物の面と面が重なり合う。

 その点は、MA2Galleryでも同様だ。面と面、色と色が交差し、階段があったり、大きな窓があったりする空間とあいまって、軽やかなリズムを生み出す。「Sandbox」は、すべり台や砂場といった遊び場の一角だろうか。ざらついた肌合いが、写真と絵の境界をあいまいにする。すぐには何か分からないからこそ、くまなく見つめてしまう。

Sandbox

 木坂さんは東京都出身。能楽師の祖母の下、物心つく前から小学生まで舞台に立っていたという。こうした環境が表現にも影響を与えたようだ。ギャラリーカメリアの原田直子さんは、「空間を認識する力がある」と話す。立体造形物をつくるわけではないが、展示室を俯瞰(ふかん)して眺めると、「空間全体がインスタレーションとなっている」。

 五島記念文化賞の海外研修で、演劇の盛んなニュージーランドとオーストラリアの2都市で過ごした。海外でちゅうぶらりんになる経験を通して、自身の視点が能の控えの間「切戸口」に重なると気づいたという。舞台でも客席でもない場所から眺めている、と個展に際して記している。

 美大出身ではなく、偶然が重なり写真の道に進んだ。個展はまだ3回目。今後、木坂さんの目はどんな光景を切り取るのだろう。共に27日まで。

MA2Galleryでの展示風景=高橋咲子撮影

2022年11月24日

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