橋本関雪の作品(左2点)と松井智恵によるインスタレーション

【展覧会】桃源郷通行許可証すぐ隣に潜む入り口

文:平林由梨(毎日新聞記者)

現代美術

 海外から美術品の借用が困難になったコロナ禍を機に、自前のコレクションをどう見せるか、再考の動きが各地の美術館に広がった。埼玉県立近代美術館で開かれている本展はコロナ禍前に計画されたものだが、この流れに位置づけられる意欲的な取り組みだ。

 〝現実の奥深くに、現在の時空間から解放された桃源郷があるとすれば、芸術作品はその扉を開くための通行許可証――〟

 そう投げかけて始まる本展では国内の現代作家6人が開館40年を迎えた同館のコレクションとコラボレーションした。

 ピンホールカメラの原理を用いて光を捉える佐野陽一(1970年生まれ)の作品は洋画家、斎藤豊作(1880~1951年)が点描した風景画のゆらぎと交差し、文谷有佳里(85年生まれ)による楽譜のようなドローイングは木や石を用いる菅木志雄(同44年)の立体作品と線と線による緊張感を生んでいた。東恩納裕一(同51年)はダイニングテーブルのある日常の一コマを統一感のない椅子やシュルレアリスト、マン・レイ(1890~1976年)の写真と共に見慣れぬ場へと変え、異国への船旅を油彩の大画面で表した松井智恵(60年生まれ)は橋本関雪(1883~1945年)の作品と穏やかでぬくもりある空間を作っていた。

東恩納裕一によるダイニングセットの周りをマン・レイなどの作品が囲む

 同館の鴫原悠学芸員が「日常と非日常のあわいをすくい取ってくれるような作家を選んだ」と話すように、松本陽子(36年生まれ)、稲垣美侑(同89年)を含む現代作家らがコレクションと共に作り上げた空間は、生活のすぐ隣に桃源郷への入り口が潜んでいることを示唆するよう。親密さだけでなくスケールの広がりが感じられたのはコレクションとの対話の効用だろう。2023年1月29日まで。

2022年11月16日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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