ジョージ・グロス「エドゥアルト・プリーチュ博士の肖像」1928年 ナチスによって「退廃芸術」に指定され接収されたが、戦後、ハウプリヒ基金によって買い戻された Museum Ludwig, Köln / Cologne, ML 76/2814.(Photo:ⒸRheinisches Bildarchiv Köln, rba_d056425_01) ⒸEstate of George Grosz, Princeton, N.J. / JASPAR, Tokyo, 2022 C4062

 ドイツ・ケルンにあるルートヴィヒ美術館は、20世紀以降の美術を専門とする現代美術館。欧州随一のポップアートコレクションや作品数世界3位のピカソコレクションなどで知られる。その核をなすのは、市民コレクターたちによる寄贈だ。2度の世界大戦や東西冷戦など激動の世紀を生きたコレクターと、彼らが心血を注いだ収蔵作品のストーリーに焦点を当てた展覧会が、京都国立近代美術館(京都市左京区)で開かれている。

 美術館は1986年開館。館に名を冠するペーター、イレーネ・ルートヴィヒ夫妻をはじめ、市民コレクターによる寄贈や、市民が参加する基金からの購入などでコレクションを充実させてきた。本展には152点を出品。各作品がいかに美術館にもたらされたかが、キャプションに記されている。例えば第1章には「ヨーゼフ・ハウプリヒより寄贈」の記述。ハウプリヒ(1889~1961年)はケルンの弁護士で、戦火から守り抜いた自身のコレクションを市に寄贈した。また、拠出した基金はナチスに接収された作品の買い戻しにも活用された。自由を奪われていた若者たちに、芸術に触れてほしい――。思いを受けた市は46年、コレクションを初公開。それを見ていたのが、若かりし日のペーター・ルートヴィヒ(25~96年)だった。

 ルートヴィヒ夫妻による収集は、古代・中世美術から現代アート、各地の民族芸術など多岐にわたった。中には、ロシア革命後の前衛作品や旧東ドイツの作家作品など、冷戦下ではアクセスが難しかった作品群も。時代やテーマ別に編まれた各章ほぼ全てに登場する「ルートヴィヒ・コレクションより寄贈」の記載から、社会的役割を自覚しながら収集に当たった、夫妻の情熱を感じることができる。

 池田祐子副館長は、本展がいわゆる名品展ではないことを強調する。「ルートヴィヒ美術館は、市民が積極的に関与することで美術館の充実化が図られている好例。その歴史的背景もぜひ知っていただきたい」と話す。来年1月22日まで。月曜休館(12月26日、1月9日は開館。12月29日~1月3日休館、075・761・4111)。

2022年11月16日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

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