本館2階、書庫の展示風景。福田尚代「翼あるもの」2003~22年、ページを折り込まれた書物(216点)=作家蔵、加藤健撮影

 飛行機や鉄道に乗って遠くに出かけることだけが旅ではない。美術作品に触れ、本を読むこともまた「ここではないどこか」に身を置くことだろう。旅とは何か、その手がかりを示してくれる展覧会が東京・白金台の都庭園美術館で開かれている。美術館を後にする頃には、旅から戻ったすがすがしさや、想像をかきたてられた心地よさを感じるだろう。

 コロナ禍さなかの昨夏に企画された本展は、同館本館を自邸とした朝香宮夫妻の100年前の旅路から始まる。「アール・デコの館」として知られる本館にはその室内装飾を目当てに訪れる人も少なくない。フランスに長期滞在した二人はアール・デコ博にも足を運んだ。展示品の数々は、そこで出合った最先端のデザインや技術をアンリ・ラパンやルネ・ラリックといったアーティストらと共に自邸に結実させた二人の熱意を伝える。

1975~76年秋冬コレクションで発表された高田賢三による中国の民族衣装に着想を得た衣服=加藤健撮影

 同じく船で渡欧し、各地の民族衣装に着想を得たデザイナー、高田賢三(1939~2020年)による衣服や、鉄道資料収集家、中村俊一朗(1941年生まれ)の「ホビールーム」を再現した空間をへて現代作家らの作品も充実する。書庫には福田尚代(同67年)の代表的シリーズ「翼あるもの」が200冊超、本棚に並んだ。折り畳まれたページの中に突然現れる1行が見る人の経験や思い出を呼び覚ます。さわひらき(同77年)は本館を舞台にした新作映像を披露。室内を小さなジェット機やプロペラ機が悠々と飛び交うモノクロの世界は現在と過去が交差する異空間に見えた。栗田宏一(同62年)は日本各地を訪れ採取した土を並べ、土地ごとの固有性、多様性を表した。

 同館の森千花学芸員は「『かなた』を示してくれる作品を選んだ。この展覧会が見る人の旅の一つになればうれしい」と語る。27日まで。

2022年11月9日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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