小川直子「ジュエリー・ハンティング・ブック」より=エイリュル・アスラン撮影

 ある時、床の上に落ちた虹色の光を手首にかざすとブレスレットのようだった――。

 ベルリンを拠点にするアーティスト、小川直子が2011年から継続する「ジュエリー・ハンティング」はそんな日常の気づきに端を発する。「何がその人に自信を持たせ、内側から輝かせるのか。日々の暮らしの中で見つけて作品にしています」と小川。東京・渋谷の「ギャラリードゥポワソン」(03・5795・0451)で開催中の個展「リフレクション」で発表する「ジュエリー・ハンティング・ブック」はこのプロジェクトを本に落とし込んだものだ。

 プロジェクトでは光を体にまとい、美しいと感じた場面を写真に撮り、場所や時間などを記録。その情報をSNS(ネット交流サービス)などで共有し、再現性のある「ジュエリー」として発表してきた。「ブック」ではイスタンブール出身で写真家のエイリュル・アスランと翻訳家で文筆家の細谷みゆきを迎え、どんなジュエリーを見つけ、どんな気持ちの変化が起きたのかを写真と言葉でつづってもらった。

 既存ジュエリーのデザインや素材を脱ぎ捨てた背景には「女性としての生きづらさ」があったという。04年に東京芸術大大学院修了後、ジュエリーメーカーで働くようになってからはハートのモチーフを毎日作る自分に疑問を抱くように。女性に対して「型にはまったデザインで、男性受けするよう飾りたてるアクセサリーを提供していることに罪悪感があった」と明かす。

 日本もトルコもジェンダーギャップ指数は100位圏外と低く、アスランさんも細谷さんも「性差が色濃く残る社会で女性として生きてきた」(小川)。細谷はつづる。ジュエリー・ハンティングは<知らない間に自分自身の美しさを他人に決めさせてしまっていた私たちに正当な権利を自らの手に取り戻す経験をさせてくれる>。それは<女の存在論の革命>だと。

 個展タイトルは光の反射や映像、そして内省を意味する。「能動的にジュエリーを見つける体験を通して、自分が何を本当に美しいと思うのかを考えるきっかけになれば」と願う。23日まで。「ブック」はギャラリー公式サイトのオンラインショップで販売。

2022年10月19日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

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