国宝「納涼図屛風(びょうぶ)」久隅守景筆、江戸時代・17世紀、東京国立博物館蔵

【特別展】
国宝・東京国立博物館のすべて/3
納涼図屛風 深みある晩夏の叙情

文:松嶋雅人(東京国立博物館調査研究課長)

コレクション

国宝

 一日の仕事を終えて軒端の下で涼み、くつろぐ静かな夕べ。3人が一心に向ける視線の先には月がのぼっていく。さまざまな水墨技法を駆使して、優美な女性の肩や男性の太い腕、衣服の質感や軒端にしげる瓢箪(ひょうたん)の葉などが描き分けられ、つつましい暮らしのなかで家族のそろう晩夏の叙情溢(あふ)れる至楽のひとときが、余すところなく表されている。

 そもそも農村の情景を描く絵は、領地領民を治める武家が自らを戒めるために絵師に命じて描かせたものが多かったのだが、これほどまでに農家の人々に目をむけて、内面的な深みを思い起こさせる作品は他に例がない。

INFORMATION

特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」

<会期>10月18日(火)~12月11日(日)。会期中展示替えあり。本展は事前予約制(日時指定)
<会場>東京国立博物館平成館(台東区上野公園)
<問い合わせ>050・5541・8600(ハローダイヤル)
<公式サイト>https://tohaku150th.jp/

2022年10月17日 毎日新聞・東京版 掲載

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