特別展「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」が4日、北九州市立美術館本館で開幕する。ルネサンス期から19世紀後半までの西洋美術史を彩る巨匠たち(THE GREATS)の油彩や水彩、素描などを時代に沿って展覧する。ベラスケスの若き日の傑作「卵を料理する老婆」やレンブラントの「ベッドの中の女性」、ルーベンスの「頭部習作(聖アンブロジウス)」など初来日作品も多い。東京都美術館、神戸市立博物館を巡回し、北九州で掉尾(とうび)を飾る本展の見どころを、奥田亜希子・北九州市立美術館学芸員に寄稿してもらった。

アンドレア・デル・ヴェロッキオ(帰属) 《幼児キリストを礼拝する聖母 「ラスキンの聖母」》1470年頃

 古都エディンバラに1859年に開館したスコットランド国立美術館は、約12万点におよぶ上質で幅広い西洋美術コレクションが世界的に知られ、毎年230万人以上が訪れる美の殿堂です。日本ではあまり馴染(なじ)みがないかもしれませんが、今年7月に所蔵作品の絵の下からゴッホの自画像が見つかったことが大きな話題となりましたので、ニュースで名前を耳にした方も多いのではないでしょうか。

レンブラント・ファン・レイン 《ベッドの中の女性》 1647年

 本展には、そんなスコットランド国立美術館が所蔵する、ラファエロ、エル・グレコ、ルーベンス、レンブラント、ヴァトー、ブーシェ、コロー、スーラ、ルノワールなど、西洋絵画の巨匠たちの作品が集結します。レオナルド・ダ・ヴィンチの師ヴェロッキオ(帰属)の聖母子像や、レンブラントらしい光と闇の表現がドラマティックな「ベッドの中の女性」、ロココを代表するブーシェによる華やかな装飾画など、15~19世紀後半までの約90点の油彩画・水彩画・素描・版画を6章に分けてご紹介しています。

フランソワ・ブーシェ 《田園の情景「眠る女庭師」》1762年

 特に注目していただきたいのは、17世紀スペインの巨匠ベラスケスが若い頃に描いた初来日の傑作「卵を料理する老婆」です。画家が20歳になる前に描いたこの作品は、台所にあるさまざまな調理道具や食材の質感が、目の覚めるような精度で描き分けられており、同館でもっとも魅力的な作品のひとつと言われています。

ジェームズ・バレル・スミス 《エディンバラ、プリンシズ・ストリート・ガーデンズとスコットランド 国立美術館の眺め》 1885年

 ルネサンス、バロック、ロココからロマン主義、印象派へと続く西洋美術の歴史をたどることができると同時に、大陸との文化交流によって英国美術が育まれていく様子を知ることができるのも本展の特徴です。18世紀には、「グランド・ツアー」と呼ばれる英国上流階級の子息たちによるヨーロッパ周遊旅行が流行し、彼らが持ち帰った美術品は自国の美術にも多大な影響を与えました。英国を代表する肖像画家レノルズによる美しい3姉妹の肖像画や、コンスタブルとターナーそれぞれの特徴が際立つ革新的な風景画、さらにレイバーンやウィルキーといったスコットランドを代表する画家たちの作品も数多く出展されます。

 新型コロナウイルス禍やウクライナ侵攻により、以前より遠く感じられるようになってしまった英国やヨーロッパ。英国美術の伝統である肖像画と風景画、そして文学をテーマにした作品を存分に堪能しながら、美術がつないだ交流の歴史についても思いを馳(は)せる機会としていただければ幸いです。


■会期 4日(火)~11月20日(日)。月曜休館。ただし、10月10日(月・祝)は開館し、翌11日(火)が休館。11月14日(月)は特別開館。

■開館時間 午前9時半~午後5時半。土曜日は午後8時まで夜間開館。入館は閉館の30分前まで。

■会場 北九州市立美術館本館(戸畑区西鞘ケ谷町、093・882・7777)

■観覧料 一般1500円、高大生1200円、小中生800円。前売り、20人以上の団体は200円引き。北九州市在住の65歳以上の方は当日料金の2割引き(公的機関発行の証明書などの提示が必要)。

主催 北九州市立美術館、毎日新聞社、NHK北九州放送局
協賛 信越化学工業、DNP大日本印刷、アサヒビール、ダイワ化成
後援 ブリティッシュ・カウンシル、福岡日英協会、九州旅客鉄道、西日本鉄道、北九州モノレール、筑豊電気鉄道、スターフライヤー、北九州市、北九州市教育委員会
助成 公益財団法人福岡文化財団
協力 日本航空、ルフトハンザカーゴAG
※本展は、政府による美術品補償制度の適用を受けています。

■関連イベント

★講演会 9日(日)午前11時。門田彩・北九州市立大学文学部准教授が「画家と権力者―エル・グレコ作品から読み解く」の演題で。美術館内のレクチャールーム。無料、申し込み不要、定員80人。
★ハープコンサート 29日(土)午後6時。打越あゆみさんがスコットランドゆかりの音楽を奏でます。美術館エントランスホール。鑑賞無料、申し込み不要。
★学芸員によるスライドトーク 30日(日)午後2時。美術館内の市民ギャラリー。聴講無料、申し込み不要、定員20人。


 ◇平日は全作品撮影できます
 平日は全作品が写真撮影できます。動画は不可。土日祝日は混雑が予想されるため禁止します。


 ◇音声ガイドは天海祐希さん
 音声ガイドの案内役は女優の天海祐希さん。名画の注目点や巨匠たちの知られざるエピソードを紹介します。600円。

2022年10月3日 毎日新聞・西部朝刊 掲載

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