1961年の作品の前で思い出を語る中辻悦子=兵庫県宝塚市で

 今年は、戦後の前衛芸術をリードした美術家の一人、元永定正(1922~2011年)の生誕100年にあたる。出身地の三重県などで記念展が開かれる中、元永が半世紀以上暮らした兵庫県宝塚市の市立文化芸術センターで、ひと味違った展覧会が開かれている。題して「生誕100年 元永定正のドキュメンテーション」。下絵や書簡、写真にメモ書き。元永が残したさまざまな〝痕跡〟から、その人物像に迫る企画だ。

 宝塚市の自宅アトリエに残された資料の中から、約400点を展示する。コンセプトは「タイムマシンに乗って元永の人生を振り返る」。企画者の高満津子さんが資料を調査中に見つけた「私のタイムマシン」という原稿から着想した。原稿で元永は、写真や過去の作品、音楽、日記などあらゆるものを「過去行のタイムマシン」と表現。高さんは「未来から過去の自分を見るという客観視ができた人で、時間というものを非常に意識していた。だからこそこれだけの資料を残したのだと思う」と分析する。

 展示品は多岐にわたる。国内外での展覧会資料。小さいものでは数㌢角のメモ。各時代の元永の名刺。「残っているのがすごい」(高さん)資料が並ぶ。絵画作品は少ないが、61年の作品は、妻で美術家の中辻悦子が大切に手元に置く1枚だ。前衛芸術家集団「具体美術協会」に所属し、東京画廊で個展を開くなど頭角を現していた頃だが、「まだ貧しくて、二階借りの狭いところで描いて、原っぱに出した作品を2階から見て『いい』『悪い』とやり取りしてました」(中辻)。実際に絵を空き地に並べている元永の写真が、そばに展示されている。

 「展覧会では見過ごされるようなものを取り上げて展示していただいている。私自身、一緒に住んでいたのにわからなかったことがたくさんあって、ほんとによく仕事した人だなあと改めて思いました」と中辻。10月10日まで。水曜休館(0797・62・6800)。

2022年9月21日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

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