(京都市京セラ美術館・9月25日まで)
気になる作品を探すようにリラックスして展示室を巡る。コレクション展はそんな贅沢(ぜいたく)な時間の過ごし方も許してくれるような雰囲気があるが、本展は魅力的な小編を集めた短編集のような構成をとっているのでなおさらである。巻頭を飾るのは「夏の名品」と題した一室。一年違いで描かれた秋野不矩(ふく)と中村研一の裸婦を描いた大作が2点、向かい合わせで紹介される。つづく「海辺の暮らし」では、旅情や郷愁、あるいは好奇心を掻(か)き立てる海辺の風物を主題とする洋画、日本画、工芸の作品が並ぶ。海辺の暮らしと言っても、モダンな水着で海辺のレジャーを楽しむ人々から漁業を生業とする人々の暮らしまで、その幅は広く一様ではない。
昨年度に収蔵された版画の個人コレクション「THE ZERO COLLECTION」を紹介する二つの部屋では、ホガースやゴヤ、マティスにピカソといった有名作家の作品により、18世紀末から20世紀までの西洋美術史の一端に親しむことができる。このうちの2部屋目は特集展示「幻想の系譜」のパート1という位置づけでもあり、象徴主義、シュルレアリスム、ウィーン幻想派の版画作品を取り上げ、その後に続く3人の日本人作家の特集展示への橋渡しの役も担う。
北脇昇、小牧源太郎、今井憲一の3人は、シュルレアリスムを出発点としながら1930年代の京都で独自の表現を模索した人物として近年注目を集めており、彼らの充実した作品が並ぶさまは壮観である。このまま、五代目からの清水六兵衞の作品を集めた最後の部屋まで進んでもよいのだが、少し立ち止まってそれまで見てきた展示をふり返ってみると、3人の作家による特集展示の味わいがまた違ってくる。冒頭にあった中村と秋野の作品もそれに続く部屋の作品も、30年代の作品が大半を占めていた。特集展示とそれまでの部屋の作品とがお互いを照らし出すように、例えば空を飛ぶ軍用機のような共通するモチーフに気づいたならば、それぞれの作品に差しこむ時代の影がいっそう色濃く感じられてくる。こうした響き合いは偶然かもしれないが、そのような偶然を招き寄せる不思議な力が、コレクション展にはしばしば宿る。
INFORMATION
京都市京セラ美術館
京都市左京区岡崎円勝寺町124
2022年9月7日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載