日本を代表する写実主義画家、野田弘志の初期作から近作までを集めた「野田弘志 真理のリアリズム」展が、兵庫・姫路市立美術館で開かれている。自身の画業を網羅する回顧展開催を喜びつつ、「実はこれからもっとやりたいことがある」と語った野田。86歳の今もなお、リアリズムの追究に燃える作家の表現は、見る者を圧倒する。
約200点の作品を6章立てで展示する。野田は東京芸術大を卒業後、イラストレーターを経て、30代で画家に専念。1980年代前半、新聞連載小説の挿画でその名を世に知られた。小説の舞台でもあった北海道の自然に魅せられ、80年代後半には風景画を制作。その後、骨や化石を描く「TOKIJIKU(非時)」シリーズや、主に裸婦を描いた「THE」シリーズに取り組んだ。10年ほど前からは多様な人物をほぼ等身大に描いた「聖なるもの」「崇高なるもの」シリーズを手がけている。作品は一貫してモチーフの存在を徹底して追究し、根底に「生と死」を感じさせるのが特徴だ。
「THE―9」(2003~04年)に描かれているのは壁と1本のロープ。物の存在について突き詰めた結果たどり着いた、究極の一枚といえる。「プロの人たちがお前の代表作だと言ってくれる」と野田。「壁の前に1本ひもを置くことで間に空間が見えてくる。見る人がさらにその前の空間も感じ、そこから深みに入ってもらいたい。そんな思いのある仕事です」
「もっとやりたいこと」について野田は、「写実はやり尽くされたかもしれないが、どうしても解明がつかない魂、精神、理念、そういう内面の深さの追究はまだ新しくできる」と語る。「あらゆる死体や生きてる人間のすごさ、タブーとされるものも全部描いちゃおうと思っている」。精緻を極めた作風は多くて1年1作のペースだが、「100歳時代だそうですし、工房を作れば(制作は)可能かな」。9月4日まで。月曜休館(079・222・2288)。9月17日から奈良県立美術館に巡回する。
2022年8月24日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載