太田三郎 「Bird Net-世界はつながっている『献花』」 2022年 会期中の毎日、新型コロナで亡くなった人の数だけ切手が加えられていく

 美術家・太田三郎の個展「人と災いとのありよう」が神戸市のBBプラザ美術館で開かれている。重いテーマに真正面から切り込むタイトル。しかしそこに並んだ作品は、どれも小さく静かに来場者を迎える。まるで、災いの前には小さな存在である人間を、優しく見守るかのようだ。

「Rescued Photo July 2018 Mabi Kurashiki Okayama Japan(2019)」=神戸市のBBプラザ美術館で、山田夢留撮影

 太平洋戦争以降日本を襲った災いをテーマに、過去にさかのぼって展開する。まず最初のテーマは新型コロナウイルス禍、の予定だった。ところが、展覧会準備中にロシアがウクライナに侵攻。「『人と災いとのありよう』がより切実になる世の中になった」(太田)と、急きょ会場の入り口に「遠征」と題した作品を展示した。武者人形の背後に、戦中のアジアの地図を配したびょうぶ。子どもの健やかな成長を願って飾られる愛らしい人形が、日本の侵略を表す地図を背負うことで、一気に平和な日常をかき乱す存在に見えてくる。と同時に、ウクライナで起きていることが地続きの災いだと感じられる。

 新作「Bird Net―世界はつながっている『献花』」(2022年)は、コロナで亡くなった人たちを思って作られた。ひつぎを連想させる大きなケースに入れられているのは、死者数と同じ数の15円切手。青地に白い菊が描かれ、防鳥ネットで2枚1組にされたパーツは、会期中も毎日追加されていく。ややもすると記号になってしまう大災害での犠牲者の数。加えてコロナ禍では、十分に死者を見送れないという事態も発生した。作品の青と白の重なりが、静かな弔いをかなえている。

 色鮮やかな抽象画かと見まがうのは、平成最悪の水害となった18年の西日本豪雨災害を受けた作品。用いられているのは、岡山県倉敷市真備町で水につかった写真だ。洗浄するボランティア活動が行われたものの、家族らが「見るのがつらい」として引き取り手がなくなったものが太田の元へ持ち込まれた。「岡山の美術の歴史の中に、大切な写真を洗って戻そうという尊い行動をした人がいたことを残したかった」と太田。台紙に飾った56点の横には、白い不織布に包まれたものも展示されている。「包帯で包むような気持ちで、普段はこうして置いている」という。

太田三郎「『POST WAR 69 戦争遺児』田渕潔 1939年8月25日生 岡山県津山市在住」2014年 和歌山県立近代美術館蔵

 太平洋戦争をテーマに1992年から制作を続ける「POST WAR」シリーズは、6件を展示する。「POST WAR69 戦争遺児」(14年)は、父親を戦死や戦病死で亡くした岡山県内の男女に取材した作品。今回あわせて、作品化を断った人たちの言葉を資料展示した。往復はがきで意向を確認した太田に、「同意しない」と答えた人たち。ある人は「人に話したくない悲しいことが多く、忘れる時はなくても、少しでも忘れる時間を求めて生活しています」と書き、ある人は「苦しみ悲しみ、さびしさを語れば限りなくあり、自分のみじめさを感じます」とつづった。「同意してくれた方の文章は作品になったが、同意されなかった方にも切実な理由がある。どこかで見てもらいたかった」。太田の願い通り、作品になった人、ならなかった人それぞれの人生の重さが胸に迫る。

 切手シート状の作品を発表してきた太田にとって、創作活動とは「存在証明」であるという。そして、さまざまな災いでつらい思いをしている人たちへの「ここから見ています」というメッセージでもあるという。決して声高に語らない作家と作品。ひそやかでも確実に届くメッセージが、そこにある。9月11日まで。月曜休館(078・802・9286)。

2022年8月17日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

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