ジョン・コンスタブル「デダムの谷」1828年

 ◇旅心誘う英国の風

 展覧会「スコットランド国立美術館THE GREATS 美の巨匠たち」が、神戸市立博物館で開かれている。ベラスケスやレンブラントら、ルネサンス期から19世紀後半までの西洋絵画史を代表する巨匠たちの作品を紹介。また、イングランドやスコットランドの珠玉の名画も見どころとなっている。これらの作品の魅力について、神戸市立博物館の高橋佳苗学芸員に寄稿してもらった。

 ◇画家のまなざしを追って 神戸市立博物館学芸員・高橋佳苗さん

 小品ながら目を引く水彩画が本展に出品されています。まずは、スコットランド出身の画家デイヴィッド・ロバーツが描いた「エディンバラの眺め、城壁から東を望む」。エディンバラはスコットランドの首都であり、彼が生まれ育った街でもありました。建物の緻密な描写には、画家の故郷への愛着が込められているようです。

デイヴィッド・ロバーツ「エディンバラの眺め、城壁から東を望む」1846年ごろ
現在のエディンバラの風景=4月、高橋佳苗さん撮影

 一方、同じくエディンバラを描いたジョゼフ・ファリントンはイングランド出身の画家。スケッチ旅行でこの街を訪れ、庶民の素朴な家々と壮大な城との対比を、新鮮な視線で描きとっています。

 気になる風景画に出会うたびに思い浮かぶのは、その作者が絵筆をとった同じ場所に立つことができたら、という願望です。異国を描いた作品ではなおさらその夢は膨らみますが、海外(主に語学)が苦手な私にとっては勇気の要る旅路。何よりこのコロナ禍に旅行は不可能だろう……と思っていたら、本展準備のためエディンバラへ出張することに。現地ではいまだ寒さの残る4月、彼らが描いた街並みとの出会いに期待を込めてこの地を訪れました。

 ロバーツが描いたのは、街の中心地、険しい岩場にそびえ立つエディンバラ城から一望できるパノラマです。私も彼が描いた場所を目指して、息を切らしながら城内を上りました。中腹までたどり着き、城壁のへりに恐る恐る近づくと、眼前に広がっていたのはまさしく作品で見た光景! とはいえ、全てが彼の描いたままではありません。作品の風景を求めて街なかを訪ね歩きましたが、経年によって建物の姿が変わり、体感する距離や高低差に違いを感じることもありました。それでも、かつてこの風景に画家が感興を覚えたのだ、と思うと、それを追体験できたようで嬉(うれ)しい。映画や漫画のロケ地を探す〝聖地巡礼〟と似たような感覚かもしれません。

 追体験は、作品を通して画家のまなざしや気持ちに想像を巡らせることでも楽しめます。彼らが何に目を留め、何を描きたいと思い、どう表現したのか。

ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー「トンブリッジ、ソマー・ヒル」1811年

 例えば、英国を代表する風景画家コンスタブルは、日々暮らし慣れ親しんだ田園風景を、愛情を持って描き続けました。対照的に、風景画の革新者として知られるターナーは、各地を旅した経験もあってか、その土地に瞬間的に感じ取った印象を描いています。彼らの視界を体感しやすい風景画はもちろん、スコットランド出身の肖像画家フランシス・グラントが結婚直前の愛娘を描いた大作など、描かれた人物への親しみや敬意が込められた肖像画にも注目です。

フランシス・グラント「アン・エミリー・ソフィア・グラント(〝デイジー〟・グラント)、ウィリアム・マーカム夫人(1836-1880)」1857年

 ここ数年、コロナ禍によって海外旅行になかなか出かけられない日々が続いていますが、ぜひ展覧会場で画家それぞれの思いに触れ、作品世界への旅路をお楽しみいただければ幸いです。

ジョン・マーティン「マクベス」1820年ごろ

 ◇全作品撮影OK!特別な夜
 ■サタデーナイト・フォトアワー
 展覧会会期中の毎週土曜17時半以降は、すべての作品を撮影できます(フラッシュ利用や動画撮影、撮影補助機材使用は不可)。個人のSNSアップなどにご利用ください。


◇会期
9月25日(日)まで。入館は9時半~17時(金・土曜は19時まで)
◇休館日
月曜と9月20日。ただし9月19日は開館
◇会場
神戸市立博物館(神戸市中央区京町、電話078・391・0035)
◇観覧料
一般1800(1600)円▽大学生900(700)円。高校生以下無料。カッコ内は20人以上の団体料金。
※日時指定予約優先制。予約なしでご来場されますと、入場をお待ちいただく場合があります。チケットは公式サイトのオンラインチケット、チケットぴあ、ローソンなど主要プレイガイド、コンビニなどで販売。詳細は展覧会公式サイト=QRコード=をご確認ください。
◇主催
毎日新聞社、神戸市立博物館、NHK神戸放送局、NHKエンタープライズ近畿
◇協賛
信越化学工業、DNP大日本印刷、日本教育公務員弘済会兵庫支部
◇後援
ブリティッシュ・カウンシル、Kiss FM KOBE
◇協力
日本航空、ルフトハンザカーゴAG

2022年8月12日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載

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