小沢さかえ「三光鳥が鳴く」2020年 Photo:Kenryu Tanaka/Courtesy of MORI YU GALLERY

 豊かな色彩と伸びやかな筆致で描かれた作品は幻想的な物語を感じさせ、見る者の想像力をかき立てる。京都市在住の画家、小沢さかえの個展「僕の知らないあなたの翼」が、兵庫・尼崎市総合文化センターで開かれている。約20年の画家生活を、絵画や絵本原画など150点の作品でたどる、初の本格的な個展だ。

 入り口すぐに展示されているのは、展覧会と同タイトルの作品(2016年)。淡いブルーの空を背景に、色とりどりの鳥たちがダイナミックに羽ばたく。大地に立つ女性は、巻き起こった風に翻弄(ほんろう)されているようにも、鳥たちを指揮しているようにも見える。妹尾綾学芸員は「翻弄されながらも羽ばたいていこうという、不安と希望がない交ぜになったような絵。閉塞(へいそく)感がある今、まず見てほしい1枚です」と話す。

 小沢は京都造形芸術大(現京都芸術大)卒業後、ウィーンへ留学。10年には絹谷幸二賞奨励賞を受賞した。作品とあいまって想像力を刺激するのが、個性的なタイトルだ。「楽園への道」(18年)に描かれるのは、木々の間をこちらへ歩いてくる、人と動物の一団。頭上には色の固まり。色調は明るいのに、どこか不穏な空気をまとい、一団は「地球最後の生き残り」といった風情だ。森の中で白いトラと人が向かい合っている作品は「あと百年あげよう」(17年)。トラが人になのか、人がトラになのか、はたまたどちらでもないのか。見る人の数だけ物語が生まれそうだ。

 「三光鳥が鳴く」(20年)や「みずうみ」(22年)など近年の大作は、まず絵の具をキャンバスに流して大胆に彩色し、そこで偶然見えたものから描き起こすという手法を使う。「木の中に仏像が見えて彫り出す、みたいな感じです」と小沢。自身も物語を想像するのが好きで「見る人に自由に読み取ってもらえたら」と話す。10年ほど前から手がける絵本や挿画の原画も展示され、印刷物とは異なる味わいを楽しめる。8月21日まで。火曜休館。同センター(06・6487・0806)。

2022年7月27日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

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