アルフレッド・イースト「雨後の傘干し」、水彩・紙

 明治時代の日本を描いた、しかも海外に眠っている作品だけを発掘、収集し続けたまれなコレクターがいる。名古屋市の高野光正さん(1939年生まれ)だ。半生をかけて「里帰り」させた秘蔵の約700点のうち約300点が東京都の府中市美術館で公開されている。7月10日まで。

 その多くは、国内では全く知られてこなかった作品だ。特筆すべきは来日した海外の画家らによる水彩画の厚みだろう。英国人新聞記者、チャールズ・ワーグマンをはじめ、米仏独約35人の作品が並ぶ。やわらかな日差しやむせかえるほどの湿度、ひんやりとした空気を、それぞれの画家が日本の何気ない場所や市井の暮らしと共に写し取った。国内に作品がほとんどない英国人アルフレッド・イーストら、日本の水彩画の誕生に大きな影響を与えた画家も含まれる。

 「忘れられた画家」として章が割かれた笠木治郎吉(1870~1923年)にも注目したい。横浜で日本の風俗を描き、外国人を喜ばせた人物だ。水彩による濃密な描写は匂いや体温、話し声まで伝え、現代のイラストに通じる人なつこさもある。吉田博、中川八郎ら明治期に渡米した画家らによる水彩画も充実している。

笠木治郎吉「提灯屋の店先」、水彩・紙

 高野さんの父、時次さんは洋画家、浅井忠のコレクターとして知られ、計73点を東京国立博物館へと寄贈した。光正さん自身は米国留学中に偶然出合った鹿子木孟郎「上野不忍池」の落札が収集のきっかけとなった。府中市美術館の志賀秀孝学芸員は「日本の水彩画史を補強し、見直すべき点も示唆する重要なコレクション。同時に西欧化、近代化といった勇ましい明治とは違う、やわらかな部分も伝えてくれる」と語る。

 昨年9月、京都国立近代美術館で開かれた「発見された日本の風景」からの巡回展。本展ではさらに数十点を追加し、作家に焦点を当て構成し直した。15日から後期展示。

2022年6月15日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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