山城知佳子「彼方」の展示風景(部分)

 東京都などが主催する中堅作家を対象にした現代美術の賞の受賞記念展。第2回受賞者の藤井光(1976年生まれ)は植民地主義など日本の近現代に刻まれた記憶を、山城知佳子(同)は生まれ島の沖縄を、アジアにも視野を広げ見つめてきた。別個の展示だが、太平洋戦争を介して緩やかに連続性を持っている。

藤井光展より

 藤井が扱うのは戦争記録画。東京都美術館で46年に開催された、占領軍関係者向けの戦争画展示をインスタレーションに仕立てた。記録に残る153点を実物大の画面などで展示し、当時の戦争画を巡る軍関係者のやり取りを、米国の公文書を基に映像で表した。時に6㍍を超える画面の巨大さが体感できる一方、絵の細部を追う映像を見ても全体像はつかめない。立ち上るのは、なお残る戦争画のえたいの知れなさだ。

 戦争体験も、私たちにとってはあまりに遠く、不確かかもしれない。それでも今をつかむために、山城は手を伸ばす。「あなたの声は私の喉を通った」(2009年)で、戦争体験者の語りを自らの身体に引き込もうとした作家は、新作「彼方(あなた)」で高齢の父と共に干潟を歩き、戦後77年目の記憶にそっと触れる。過去の苦しみは、寄せては返す波のように、時に遠景に遠のく。

 観客は手前にある「チンビン・ウェスタン 家族の表象」「あなたをくぐり抜けて」のインスタレーションで、サーチライトや銃撃のような光と音を浴びる。そうしてこわ張った体は一転、「彼方」で、頭上から差す光と、満ち引きのリズムでほぐれていく。乾ききった「チンビン~」に対し、やわらかく湿った砂の感触に山城の思いがにじむ。

 過去を足がかりに、今後2人がどのような道を歩むのか、楽しみだ。東京・木場の東京都現代美術館で6月19日まで。

2022年5月25日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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