【展覧会】
華風到来 チャイニーズアートセレクション
官民相互の信頼あればこそ

文:小林公(ただし)(兵庫県立美術館学芸員)

コレクション

 (大阪市立美術館・6月5日まで)
 大阪市立美術館は1936年5月に開館した。日本の公立美術館としては東京、京都に続く最も早い例の一つである。2022年秋から約3年間の大規模改修工事に入るということで、長期休館を前にコレクションをまとめて紹介する特別展が開催されている。

島成園《上海娘》大正13(1924)年 大阪市立美術館蔵

 展覧会名にある華風とは中国風という意味で、国内屈指の中国美術のコレクションに由来する。2階にわたる展示室に、選(よ)りすぐりの中国の書画、拓本、工芸、石造彫刻、そして中国美術を手本とし、あるいはかの国の風物をとりあげた日本美術が並ぶ。「中国四千年」とも言われる隣国からもたらされたコレクションには、紀元前9~8世紀に由来する「〓季子白盤銘(かくきしはくばんめい)」など、遠大な歴史を実感させる逸品も数多い。スケールの大きさに怖(お)じ気づきそうにもなるが、素晴らしいのはすべての作品にユーモアあふれるキャッチフレーズと丁寧な解説が付されていること。「漆のミルフィーユ」、「文人あるある」、明代末期に活躍した董其昌(とうきしょう)の重要文化財に指定される絵画に対しても「大きさの割に意外にあっさり」など、案内役は大胆不敵である。親しみやすくも見どころをおさえた説明に導かれるうちに、誰もがそれまで知らなかった作品との幸福な出会いに恵まれるだろう。

 本展につづく併設展示では、館とそのコレクションの成り立ちが紹介される。美術館の立地は住友家の寄付によるもので、収蔵品の基盤も多くの個人コレクションが寄贈されたことで築かれたという。この美術館が官民共同で、もり立てられてきたものであることに改めて感慨を抱く。それは、民間の活力を取り入れる、といった近年の公立美術館を巡る議論にみられるニュアンスとは異なる種類の関係である。寄贈者を代表する一人は、作品の保存、研究、公開の必要を認識し、博物館への寄贈を見据えた上で収集を行ったという。それは美術館の側にも、託された思いを全うする責任があることを意味する。

 公共という価値は民と官の相互の信頼の上に築かれる。だからこそ戦前からの長い歴史を誇る美術館の活動とコレクションは大阪市民が誇りとするのにふさわしいものとなった。しばしのお別れの前に、美術館が受け止めてきた人々の思いを確かめておきたい。

INFORMATION

大阪市立美術館

大阪市天王寺区茶臼山町1の82

2022年5月18日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

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