異素材を組み合わせるコラージュ的手法で、立体から平面までさまざまな作品を手がけてきた美術家・金氏徹平(43)。演劇など他ジャンルとのコラボレーションを経て、今見つめるのは原点である「彫刻」だという。不変的で永続的な時間を感じさせる近代までの彫刻に対し、本展からは、不定形や即応性といった言葉が思い浮かぶ。
従来の作品では、カラフルな日用品を用いる印象も強いが、今回はコンクリート造りの建物に溶け込むように、灰色やシルバー、白といった色合いの作品が並んでいる。
最新作では、千葉・市原の周辺を歩いて見つけた廃材や石を用いた。地下1階の吹き抜けの空間では、捨てられていた浴槽を重ねたり、ガラスケースにパイプ管などさまざまな管の断片を入れて見せたり。ガラスケースからは時おり演劇用のスモークが噴出し、時間ごとに色が変わる照明がフロアを照らす。色も形も移り変わる彫刻。響く流水音も移ろいの感覚を強調する。
グレーゾーンという言葉があるが、金氏は「いろんなものが混ざる状況や、何かの途中としてのグレーがある」と話す。概念的なイメージに加えて、近くを走る高速道路や採石場など具体的な周囲の環境からも着想を得たという。
過去作は、素材を足したり、場に応じて組み直したりしているといい、「変化し続けるほうがリアリティーがある。変化を肯定的に受け入れたいという姿勢の表れでもある」と話す。
会場の市原湖畔美術館(千葉県)は、既存施設のコンクリートの構造体にスチール板を組み合わせるコラージュ的方法でデザインされているとか。金氏の手法がいっそう効果的に響くのは、この建物のせいもあるだろう。同館で6月26日まで。
2022年5月11日 毎日新聞・東京夕刊 掲載