カール・アンドレ「雲と結晶/鉛、身体、悲嘆、歌」(1996年)

 1960~70年代、美術は大きな転換点を迎えた。「作品は作家が自らの手で何かを表現した形あるモノである」という常識を根底から覆す動きが広がったのだ。それらは「ミニマルアート」「コンセプチュアルアート」と呼ばれ、今日に至る現代美術の源流となった。この二つの動向を振り返る「ミニマル/コンセプチュアル」展が兵庫県立美術館(神戸市)で開催中だ。

 主に60年代の米国で展開したミニマルアートは作家の手仕事を排し、単純で幾何学的な形を特徴とする。続いて国際的に広まったコンセプチュアルアートは形以前のアイデアを重視した。今展は、両者を欧州でいち早く紹介したドイツのギャラリスト、ドロテ&コンラート・フィッシャー夫妻の旧蔵品を軸に18作家の作品や資料を展示している。

 フィッシャー夫妻が67年に開いたギャラリーでは実験的な作品が生まれた。例えば鉛の立方体144個を2組使ったカール・アンドレのインスタレーション。12個×12個の配列とばらばらに散らばったキューブが床の上で対比される。「限定された要素で最大限の意味を導くミニマルアートの特徴をよく表している」と同館の河田亜也子学芸員。ランダムな配置は展示する側に委ねられ、作家の個性に基づく表現は無効化される。

 さらにこの時代、「絵画の根本原理を総点検していく態度があった」と指摘。白を基調とした正方形に絵画表現を固定させたロバート・ライマン、絵画と写真の境界を揺らす「フォトペインティング」を試みたゲルハルト・リヒターらはその好例だ。既存の美術にあらがう姿勢は、ベトナム反戦運動やパリの五月革命など反体制の空気が広がった時代とも無縁ではない。マルセル・ブロータースは作品が唯一の本物であることを示す署名を主題に、それを反復させることで権威的な制度をユーモラスに皮肉った。

 コンセプトを重視する表現は作家不在の制作も可能にした。ブルース・ナウマンは画廊主に宛てた手紙に制作手順を記した。そうした「作品と同等の価値を持つ」資料群も充実。今や歴史化された「名作」の始まりに触れられるのも今展の面白みだ。5月29日まで。月曜休み。兵庫県立美術館(078・262・1011)。

2022年4月27日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

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