安本亀八による「相撲生人形」(1890年)のパーツ。手前から右腕、左足、頭部

【展覧会】
リアル(写実)のゆくえ
気配や記憶、写し取る

文:平林由梨(毎日新聞記者)

現代美術

 5年前に栃木県の足利市立美術館などを巡回した同名展示会の続編として企画された。今回は、明治時代に作られた生人形を皮切り役に、立体作品にフォーカスを当て、日本の「リアルな表現」に迫った。

 まず目に飛び込んでくるのは幕末から明治にかけて活躍した人形師、安本亀八(1826~1900年)による「相撲生人形」だ。作品保護のためパーツを組み上げた完成形は後期展示(5月10日~)のみ見ることができ、現在は2力士の腕と頭、足がばらばらに置かれている状態だ。それでもふんばった際のふくらはぎの張りや力を込めた足先のこわばりが伝わる。

 その周りには人形師に師事した平櫛田中(1872~1979年)による歌舞伎役者の裸像のほか、国内初とされる義足に着想を得た小谷元彦(72年生まれ)の木彫、佐藤洋二(同55年)による表情豊かな義手などが並ぶ。生人形から続く、人体の再現に肉薄する試みの数々だ。

 「尋常でないほど徹底して作り込む点、ユーモアを隠し持つ点が日本の写実の特徴でしょう」と、同展を企画した神奈川県の平塚市美術館の勝山滋・学芸担当長は語る。器に樹脂を流し込んで金魚を描く深堀隆介(同73年)や、漆で鉄や陶磁など異素材の質感を再現する若宮隆志(同64年)らの作品はこの流れに位置づけられるだろう。

 そして「これからのリアル」を想像させたのが80年代生まれの作家たちだ。中谷ミチコ(同81年)は真っ黒な立方体をした石こうの一部を削り取って内側に人の顔を描き、七搦(ななからげ)綾乃(同87年)は風化し朽ちていく命をクスを彫って表した。モノを取り巻く気配や記憶までも写し取ろうとする決意を感じた。同美術館で6月5日まで。新潟市美術館など5館を巡回予定。

七搦によるクスを素材とした彫刻

2022年4月27日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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