エルザ・スキャパレリによるドレスとケープ。右のドレスにはマッチ棒がプリントされている

【展覧会】 奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム 芸術運動との共振

文:平林由梨(毎日新聞記者)

シュールレアリスム

ファッション

 モードをめぐる狂気と、世界を新たな意識で捉え直そうとした20世紀最大の芸術運動、シュールレアリスムの精神を「奇想」という視点を通して見せる展覧会が東京都庭園美術館(港区)で開かれている。

 コルセットやてん足用の靴、亡くなった人の毛髪で編んだアクセサリー――。旧宮家の洋館に、かつて人をとりこにした装飾品が並ぶ。過剰ともいえる装いへの執着に背筋が冷たくなる。同じ空間にはダリ、キリコ、マン・レイらシュールレアリストの作品。共通点は理性や現実を超えるものに触れようとする人々の並外れた営みといえるだろう。

 当時のファッション誌が、モードとシュールレアリスムの関係を分かりやすく示していた。アールデコ調のイラストから一転、「VOGUE」の表紙をダリが描くなど1930年代にはその影響を色濃く反映した。シュールレアリストらがマネキン、ミシン、アイロンといった裁縫道具を作品のモチーフによく使ったことも示される。日用品を芸術の主題とするのはシュールレアリスムの神髄でもある。モード界に独自の地位を築いたエルザ・スキャパレリはドレスにマッチ棒をプリントしたり、香水瓶をパイプの形にかたどったりしてその精神と共鳴した。

ユアサエボシによる「着衣のトルソーと燃えている本」(右)他2点

 新館では現代作家による現在進行形のモードを紹介。ユアサエボシによるトルソーをかたどった油彩画が、本館からシュールレアリスムの響きを引き継ぐ。おいらんの高げたから着想した舘鼻則孝による「ヒールレスシューズ」や、動物の毛や鳥の羽根を使った串野真也による靴も並んだ。神保京子学芸員は「時代の先端を切りひらくモードの担い手とシュールレアリストが共振し合う様を感じてほしい」と語った。4月10日まで。

2022年3月30日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする