「Ground Zero」(2022年)

【展覧会】 李晶玉 SIMULATED WINDOW 絵画通じ探る「骨組み」

文:高橋咲子(毎日新聞記者)

現代美術

 上からの視点、下からの視点。広島でよく聞く言葉だ。「上から」は、すなわち原爆を投下した側の視点。「下から」は、被爆した人たちの視点だ。丸木位里・俊夫妻の「原爆の図」が地べたから描かれたものならば、李晶玉(リジョンオク)(30)にとっての広島はどうなのだろう。

 ゼロ戦や五輪競技場などをモチーフに、歴史や国家の枠組みを絵画で問うてきた李。原爆の図丸木美術館(埼玉県東松山市)での個展にあたり、タイトルはエノラ・ゲイの格納庫にあった落書きからとった。爆撃機の窓から見た風景を想像して後年描かれたらしい、富士山や太陽。戦勝国の「窓」を通したイメージだ。

「Ground Zero」の部分

 展示室に入ると、光を浴びたような白い空間が広がる。正面にあるのは、巨大な「Ground Zero」。東京都心部や富士山が鳥瞰(ちょうかん)図風に描かれる。中心には、核爆発の火球や神話の太陽を思い起こさせる真っ赤な球。その下に皇居の暗い森がある。

 過去作のように、都市の骨格を精緻な描線で表し、あえて原画をプリントして用いる手法をとっている。「フィクションだと強調するため」(李)だといい、そうすることで、一つの画面のなかにプリントと肉筆といった複数の世界が生じるのも狙いの一つだ。

 戦後米国の影響下にあった国に生きる、在日朝鮮人3世としての自分。戦争や歴史の問題を考えるとき、「自分の中に複数の視点が半ば矛盾するように存在している」(本展のステートメント)という。動画で見た米軍機の操縦席や、原爆資料館の展示も含めて描いたのは、戦後75年以上がたち「つくられたものからのぞき見るしかない」と自覚しているからだ。

 上からか下からかといったシンプルな物差しでは測りきれない自らの内面について、さまざまに絵画を通じて問いかけている。4月10日まで。

2022年3月23日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする