スペイン・バルセロナ生まれのジュアン・ミロ(1893〜1983年)。よく知られたこの画家が、これほどさまざまな局面で日本とつながりを持っていたとは。日本との関係を資料や作品から丹念にたどったのが本展だ。
冒頭で紹介するのは、美術学校を卒業して間もなく描いた友の肖像。浮世絵コレクターだった親友を表すものとして、画面に浮世絵をじかに張っている。隣には同時代のスペイン人が持っていた同じ図様の浮世絵を展示しており、収集熱の高まりも分かる。
関心は一時のジャポニスム的興味にとどまらなかった。目を引くのは、ミロや周辺者が所有していた大津絵やこけし、たわしなどの展示。50年にはバルセロナで「日本民芸展」が開かれ、来場者は「ミロそのものだ」と評し、ミロ自身も訪れたという。
開催したのは、前衛芸術集団「コバルト49」。民衆から立ち上がった美を重要視する民芸運動に、フランコ政権下で活動が厳しく制限されたカタルーニャ地方の芸術家たちが思想的にも造形的にも共鳴したことが興味深い。
墨と和紙を用いた描線の実験、日本文化に造詣の深い友人との陶芸の実践、巻物状の作品……と多様な試みを重ねるなか、66年に毎日新聞が主催した個展の開催に合わせ初来日。瀧口修造らと対面したほか、書家とも交流。「祝毎日」という書もしたためた。最後の部屋では、来日を経て、より抽象的に、より大胆に黒を用いた作品が展示される。
本展からは、ミロ個人の日本への関心だけでなく、スペインにおける日本陶芸や民芸運動の受容、さらに欧米の抽象絵画の動向など多様な背景が浮かび、日本開催のミロ展として意義深い。東京・渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで4月17日まで。愛知、富山に巡回。
2022年3月2日 毎日新聞・東京夕刊 掲載