studio velocityによる「山王のオフィス」模型。屋上の用途に想像が広がる

 「かたちとは必然である」「かたちとは環境である」「かたちとは振るまいである」--。

 出展する建築家全35組が、自身の模型の解説文を必ず「かたちとは~」の一文から書き出していた。建築家は形をどう捉え、導き出すのか。その思想を浮き彫りにしようという本展キュレーター、建築史家の五十嵐太郎さんの試みだ。

 ガラスやコンクリートで合理性を追求したモダニズム建築に対し、奇抜な形で強烈なイメージを放ったポストモダン建築は国内では「バブル建築」とも言われた。しかし、バブル崩壊後は震災も影響し、こうした建築は忌避されてきたと五十嵐さんは指摘する。そんな「ポストバブル」の時代、日本の建築家は何を根拠に自ら建てるものの形を決定しているのだろう。

 田根剛さん(1979年生まれ)による3階建ての住宅模型は松ぼっくりのような形をしていた。東京・等々力渓谷という自然豊かな立地環境は田根さんを原始住居の研究に駆り立てた。形はその結果だという。いわく「かたちとは記憶である」。

田根剛さんによる住宅模型と、設計のために重ねた試作の数々。住宅は2018年に東京都内に完成した

 「かたちとは相反する空間の境界面である」としたstudio velocityによるオフィスの模型は大きくたわんだ屋根の形が目を引いた。平らな板を重力と張力によって曲げるという大胆な挑戦をし、屋根は同時に山裾のような勾配が楽しめる屋上にもなっていた。

 現在進行形の日本の建築を見せる本展は「日仏交流の証し」とも言われる船「アジール・フロッタン」の復活プロジェクトの一環で、フランスを巡回してきた。船は、ル・コルビュジエが難民の避難所として改装し、パリのセーヌ川に係留されていたが、2018年に増水によって沈没するなどしていた。19日まで、横浜市西区みなとみらい5のBankART Station。

2022年2月2日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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