間やリズムが展示室全体に響く菅木志雄展

 「もの派」の作家として知られる、現代美術家・菅木志雄(すがきしお)さん(77)の仕事を総覧する個展「菅木志雄展 <もの>の存在と<場>の永遠」が故郷の岩手県立美術館(盛岡市)で開催されている。15日に建畠晢・多摩美術大学長との対談があり、建畠さんは「もの派のなかでも菅さんはふくよかで、フレキシブル」だと評した。

 1970年前後に興り、近年国際的評価を高める前衛美術の動向「もの派」の中心的存在。ほとんど未加工の石や木、鋼材を用いて空間に配置し、一貫して「もの」と「場」の関係について思考を深めてきた。
 多摩美大卒業年の68年から最新作までインスタレーションや写真、記録映像など約120点を紹介する展覧会。まず象徴的に鑑賞者を出迎えるのは、69年作の「斜位相」だ。二つの木板が「入」の形に斜めになって支え合い、足元を石で抑えている。建畠さんはこの作品を挙げて「『場』への問題意識が既にあったのではないか」と問いかけると、菅さんは「人間がなぜ立っているのかという疑問があったんですよ」と応じた。ものが立つ。横になることもある。これが当たり前とされている。ではその間の斜めの状態は? 「僕にとって一体、どのような状況が最善なのかという問題意識があった」。そんな問いを具現化したのだという。

 再制作の作品もある。板や枝に沿うように石を並べて空間をつくる「事位」は80年に発表した作品だが、別の石を用い、新たな場で制作すれば、新たな空間が現れることになる。こうしたスタイルを建畠さんは「非常にふくよか」だと評する。他のもの派の作家と比べて「造形概念をギリギリまで煮詰めるような求道精神ではなく、非常にフレキシブルに状況を出現させる」と話す。

 この日、美術館の外は厚く雪が積もっていた。高い窓があるグランド・ギャラリーや屋外にも作品は展示されていて、雪の白を受けてものの存在がいっそう確かに感じられる。菅さんは「見て分かるかどうか考えなくてもいい。見た通り『こうなっている』と納得しながら、疑問に思うことを自分なりに考えてみてほしい」と話していた。2月20日まで。

2022年1月30日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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