平安期から近代まで、日本の絵画史を展望する特別展「名画の殿堂 藤田美術館展 傳三郎(でんざぶろう)のまなざし」が、奈良市の奈良国立博物館で開かれている。休館中の藤田美術館(大阪市)の所蔵品から、国宝2件と重文6件を含む74件(うち初公開23件)を出展。国宝の曜変天目(ようへんてんもく)茶碗(ちゃわん)など茶道具の印象が強い同美術館だが、今回は膨大な絵画コレクションから、大和絵▽日本画に影響を与えた宋・元絵画▽中世水墨画▽近世・近代日本画――など各時代の名品を堪能できる。
見どころは平安後期から鎌倉初期にかけて活躍した宮廷絵師、藤原宗弘(むねひろ)の仏教画「両部大経感得図(りょうぶたいきょうかんとくず)」(国宝)。谷口耕生学芸員は「平安期の最高水準の絵。同時期の絵画で作者が判明しているものは他にない」と語る。「善無畏金粟王塔下(ぜんむいこんぞくおうとうか)感得図」「龍猛南天鉄塔(りゅうみょうなんてんてっとう)相承図」の2点組みで、インドの僧、善無畏と龍猛が密教の経典「大日経」「金剛頂経」を感得した伝承が描かれている。
中国・唐代の僧、玄奘(げんじょう)の生涯を描く絵巻「玄奘三蔵絵 巻第四」(国宝)は鎌倉期(14世紀)の逸品だ。宮廷絵所預(えどころあずかり)を務めた高階隆兼(たかかね)による12巻組みの一つで、インド北方にある釈迦(しゃか)関連の遺構を巡る場面。「大和絵の大成者である隆兼が描く未知なる異国の風景」(谷口学芸員)を青緑山水で楽しめる。
京都画壇の巨匠、竹内栖鳳の代表作「大獅子図」も展示。渡欧を経た1902(明治35)年ごろの作で、金地を背景に堂々としたライオンの姿を精緻に描いている。
藤田美術館は建て替えに伴い長期休館中(4月に再開館予定)。収蔵品を一時保管する奈良博が絵画を調査し「当初は報告書だけの予定でしたが、素晴らしいものが多かったので」(谷口学芸員)特別展開催に至ったという。23日まで。
2022年1月16日 毎日新聞・東京朝刊 掲載