【展覧会】
福富太郎コレクション展
至高の目利きの「芸術遺産」 清方など80点

文:清水有香(毎日新聞記者)

コレクション

日本美術

 経営するキャバレーを全国に展開した「キャバレー王」にして、類いまれなる目利きの美術コレクター。昭和を代表する実業家、福富太郎(1931~2018年)による珠玉のコレクション約80点を集めた展覧会「コレクター福富太郎の眼(め)」が、大阪市阿倍野区のあべのハルカス美術館で開催中だ。その「眼」にほれ込み、「間違いなく戦後最高のコレクター」と評する美術史家の山下裕二・明治学院大教授が監修を務めた。

 来場者をまず出迎えるのは、鏑木清方(かぶらききよかた)の「薄雪(うすゆき)」(1917年)。近松門左衛門作「冥途(めいど)の飛脚」をモチーフに、死の覚悟を決めた男女の抱擁を描いた逸品だ。福富と清方との縁は幼少期にさかのぼり、父が大切にしていた清方作品を空襲で焼失したことがコレクターとしての原点にあった。会場に並ぶ13点もの清方作品の中でも「薄雪」は福富が一緒に棺に入れて埋葬してほしいと語るほど思い入れが強かったという。

 福富は清方のような有名画家だけでなく、まだ無名だった画家の作品も収集した。「福富さんは近代の日本の美術史を書き換えることになる作品をたくさん持っていた。有名無名を問わず、これほど自分の目で見て、ほれ込んだ作品を集めた人はいない」と山下教授。近年、再評価が進む渡辺省亭(せいてい)や小村雪岱(せったい)といった画家の作品にも早くから注目していた。

 美人画で知られる福富コレクションだが、高橋由一や岸田劉生らによる黎明(れいめい)期の洋画から、戦争画までその幅広さを伝えるのも本展ならでは。日露戦争で戦死した夫の遺品を持つ女性を描いた満谷国四郎「軍人の妻」(1904年)は制作直後に米国に渡り、90年近くを経て福富コレクションに加わった。自らの楽しみだけでなく、「芸術遺産として残したい」と考えた一人のコレクターの情熱に心揺さぶられると同時に、「この展覧会の実現は僕の使命だと思った」と語る山下教授の思いの深さも感じる。

 来年1月16日まで。12月31日、1月1日は休館。あべのハルカス美術館(06・4399・9050)。

2021年12月22日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

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