米国に渡り、映像と立体作品を組み合わせた「ビデオ彫刻」を追究した久保田成子(1937~2015年)の大規模展が東京・木場の都現代美術館で始まった。これまで夫、ナムジュン・パイクの陰に隠れがちだった久保田の先駆性、独創性に光を当てた。
久保田は草間彌生、オノ・ヨーコらと同世代。20代で読売アンデパンダン展に出品したり、パフォーマンスといった新しい表現に挑んだりするも批評家らの応答が得られず渡米。パイクのいる前衛集団「フルクサス」に参加し、70年ごろからビデオを使った制作に取り組んだ。
一方的に映像を見せるビデオアートと久保田のビデオ彫刻が一線を画すことが展示からよく分かる。ステンレスの水槽で波打つ水面に下向きにつられたモニターの映像がゆらぐ「河」や、いくつもの突起の底に映像を埋め込んだ「韓国の墓」は、かがみ込んだり、のぞき込んだりしなければ映像は見えない。見る人は周りをぐるぐると巡り、造形の一部となって輝く映像に到達しようともがく。同館の西川美穂子学芸員は「鑑賞者の能動的な動きを誘発し、身体を通して見ることを考えさせた」とその意義を語る。代表作「デュシャンピアナ」シリーズでは自らが獲得したビデオ彫刻というメディアを用いて「現代美術の父」と言われたマルセル・デュシャンに果敢に対峙(たいじ)した。
評価が確立されつつあった96年にパイクが脳梗塞(こうそく)で倒れ、久保田はその後10年を介護に費やす。20代のころ批評家、瀧口修造に送った手紙が印象的だった。自身の活動について「束縛されたくない心のレジスタンスです」とつづっていた。女性、日本人、妻として、時々に葛藤を抱えながら、それでも進むべき道をひらいてきたパイオニアのエネルギーが伝わってくる。22年2月23日まで。
2021年11月17日 毎日新聞・東京夕刊 掲載