打面のスリットによって水の波紋のように音が広がる「波紋音」

 見て楽しい形から、楽しい音が生まれる。形と音との関係を、時に実際に触れながら確かめられる展覧会が東京・外神田のアーツ千代田3331で開催されている。

 静かなはずの展示室で、いろんな音が混じり響いている。1913年に制作されたルイジ・ルッソロの「イントナルモーリ」(再制作)や70年大阪万博で展示されたフランソワ・バシェによる「勝原フォーン」(修復)、近年制作された宇治野宗輝や藤田クレアの作品まで、音楽や美術の既成概念を広げてきた約40点を紹介。実際に演奏できたり、自動演奏されたりと、音を体感できる仕掛けもある。

貝殻を用いてぎこちない音が生まれる藤田クレアの作品

 冒頭で「楽しい音」と書いたが、なぜ楽しいと感じるのだろう。一つにはさまざまな形から、予想もしない音が飛び出すからだろう。多摩美大で彫刻を学んだ齋藤鉄平(73年生まれ)が創作した「波紋音(はもん)」は、おわんにスリット入りのふたをしたような鉄製の楽器。バチでたたくと柔らかな音が鳴り、底に手を置けば音と自分の体が一つになるような余韻が広がる。ハンス・ライヒェル(49~2011年)による「ダクソフォン」は、ユニークな形の木板を三脚に固定し、弓などで弾く楽器。バシェが考案した教育音具はカラフルな色合いで、色とりどりの響きを触って自ら発見するよう誘発する造形だ。

 「波紋音」を演奏する打楽器奏者の永田砂知子(50年生まれ)は元々クラシック畑だった。「以前は西洋音楽の規範のなかで、作曲者の意図通りに演奏していた。今は、自分のルールはあるけれど、誰かに命令されない」と魅力を語る。決まった形と決まった音から解放された、自由さがあるから楽しいのだ。

 多様な人々と共に表現活動を通してアートと社会のあり方を探ってきた「クリエイティブ・アート実行委員会」の主催。21日まで。

2021年11月10日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする