福田美蘭「風俗三十二相 けむさう 享和年間内室之風俗」2020年

 過去の名画から学び、名画と遊んできた美術家、福田美蘭(1963年生まれ)が、本格的に日本美術に目を向けた。新たに千葉市美術館のコレクションに分け入り、江戸美術を中心に日本美術が持つ機知を読み解いてみせた。

 冒頭にあるのは「見返り美人 鏡面群像図」。言わずと知れた菱川師宣の肉筆画を下敷きに、周囲の6枚の鏡に映った「見返り美人」を描いた。七つの姿から、実は上体を大きくひねった姿勢であること、振り返りの動作を一つの姿勢の中に抽象化して描いたことが浮かぶ。素通りしてしまいそうな既知の(と思い込んでいる)イメージを調理し、鑑賞者に味わう機会を差し出すのは作家の十八番だ。

「見返り美人 鏡面群像図」=高橋咲子撮影

 千葉市美術館は江戸美術コレクションに定評があり、これまで辻惟雄や小林忠といった江戸美術研究の泰斗が館長に就いてきた。福田はこの有数の収蔵品を、館長らによる論考も含めて読み込んで「本歌取り」し、本展の核とした。

 浮世絵「風俗三十二相 けむさう 享和年間内室之風俗」は月岡芳年が晩年に手がけた美人画の代表作。上る煙に顔をしかめる女性を巧みな構図で描いている。福田作に目を移すと、煙は五つの輪に姿を変えている。煙たがられる五輪という時事性に加え、薄布のように描かれた煙の造形的魅力も伝わってくる。一方、実体験の川下りを表した伊藤若冲の「乗興舟」からは、実景を非現実的世界のごとく昇華した白黒拓本画の特質を見いだし、2年前の天皇、皇后両陛下のパレードとして表した。

 同じ描き手として古美術が持つエッセンスを引き出し、時に視点を変えて作品世界に導く。福田作品と隣に展示される「名画」を何度も往還するうち、遠い過去の作品と現代の接続点が見えてくるはずだ。千葉市美術館で12月19日まで。

2021年10月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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