自画像(2019年)

【美とあそぶ】加藤登紀子さん/4止描くこと、歌作りに影響

文:上東麻子(聞き手、毎日新聞記者)

インタビュー

 人生で初めて描いた自画像で、杯を持っています。日本酒を飲みながら歌う年末恒例の「ほろ酔いコンサート」を半世紀にわたり続けてきた。そこで歌っている私を描いたの。コンサートで歌う声が聞こえてきそうでしょう。

 油絵は絵の具が乾くのに時間がかかるから、部屋にキャンバスと絵の具を出しっぱなしにして、毎日少しずつ描いた。帰宅したら絵に「ただいま」と声をかけてね。キャンバスに向かうと没頭する。こういうライフスタイルもいいなと思いました。自画像は自分の顔をメークしているような感覚で楽しいわね。

 陶芸や書を究めようと思ったこともあるけれど、没頭すればするほど、そこで得たものが歌につながる感じがするの。例えば、書は紙一枚だけで表現する世界。歌詞でも、一行だけで意味があるフレーズを考えるようになった。絵も知らないうちに、歌作りに影響を与えている。

PROFILE:

加藤登紀子(かとう・ときこ)さん

1943年旧満州(現中国東北部)ハルビン生まれ。65年、東京大在学中に歌手デビュー。「ひとり寝の子守唄」「知床旅情」で日本レコード大賞歌唱賞受賞。80枚以上のアルバムと多くのヒット曲を送り出す。92年、仏政府からシュバリエ勲章を授けられた。

2022年8月8日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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