バラで乾杯(2019年)

【美とあそぶ】加藤登紀子さん/3かけがえのない曲、もとに

文:上東麻子(聞き手、毎日新聞記者)

インタビュー

 水彩画を始めて1年たち、初めて描いた油絵です。何を描きたいか。それはやっぱり自分が歌っている世界。この絵は代表曲「百万本のバラ」をイメージしたの。

 この歌は元々、ロシア語の歌謡曲。実在したジョージアの放浪画家、ニコ・ピロスマニが女優に恋をして、広場を赤いバラで埋め尽くしたエピソードが詩になった。ピロスマニの絵は一部で評価されたけれど、中央画壇からは徹底的に酷評され、貧困の中で亡くなった。でも、私は尊敬している。もし画家になっていたら、彼のように評価は気にせず生きて、野垂れ死にしていた気がするわ(笑い)。

 バラを生けている花瓶は父が経営していたロシア料理店のもの。子どもの頃から父の店で触れていたロシアの音楽が、ずっと私の中にある。「百万本のバラ」が私のかけがえのない曲になったのは、子どもの頃にロシア文化に触れた体験と歌が結びついているからだと思う。

PROFILE:

加藤登紀子(かとう・ときこ)さん

1943年旧満州(現中国東北部)ハルビン生まれ。65年、東京大在学中に歌手デビュー。「ひとり寝の子守唄」「知床旅情」で日本レコード大賞歌唱賞受賞。80枚以上のアルバムと多くのヒット曲を送り出す。92年、仏政府からシュバリエ勲章を授けられた。

2022年8月1日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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