ニコライ堂(2018年)

【美とあそぶ】
加藤登紀子さん/1 お気に入りの初作品

文:上東麻子(聞き手、毎日新聞記者)

 書や陶芸はたしなむけれど、絵は子どもの頃から全くダメだったの。母が嘆いたくらい。

 それが、テレビのバラエティー番組で描くことになり、最初の作品がこれ。東京・お茶の水にあるニコライ堂は、思い出の場所です。父が経営していたロシア料理店「スンガリー」のロシア人料理長の息子さんがここで結婚式を挙げたのよ。ロシア人がたくさん来て、みんなでウオッカで乾杯してキスを交わした。コサックダンスをしたり、肩を組んで合唱したり……。楽しいパーティーだった。

 ヨーロッパは日本と違って太陽の光が弱くて暗い。そのせいか、正教会の大聖堂としてのニコライ堂は、背景が青空だとつまらなくて。曇りの日に描いていたら雲の間からうっすら太陽の光が差してきた。その光を表現したかった。完成した作品を見て番組のコメンテーターは「線がゆがんでいる」と酷評したけれど、私はお気に入りよ。

PROFILE:

加藤登紀子(かとう・ときこ)さん

1943年旧満州(現中国東北部)ハルビン生まれ。65年、東京大在学中に歌手デビュー。「ひとり寝の子守唄」「知床旅情」で日本レコード大賞歌唱賞受賞。80枚以上のアルバムと多くのヒット曲を送り出す。92年、仏政府からシュバリエ勲章を授けられた。

2022年7月11日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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