「生き延び『生』を伝えたかった」

【美とあそぶ】野口健さん/2生き延びた証しとして

文:岸達也(聞き手、毎日新聞記者)

インタビュー

 2011年5月4日。私はエベレストを清掃するため再び登っていました。ヒマラヤには数十回遠征しましたが、近年は登山者の残したゴミを拾う清掃登山がほとんどです。

 午前9時半ごろ、クレバスとクレバスの間の巨大な氷のブロックのような場所にさしかかったところで、巨大な雪崩に襲われました。逃げ場がなく、6人のパーティーで集まってしゃがみこみ、突っ込んでくる雪の塊をやり過ごすしか選択肢がなかった。押し流されればクレバスに落ちます。はっきりと、死を意識しました。すさまじい衝撃を感じ、体こそ雪に埋もれましたが、奇跡的に皆無事でした。雪崩の一部が手前のクレバスにかなり流れ落ちました。クレバスに助けられたのです。

 死を意識し、生きている。後で気づいたのですが、私はほぼ無意識のうちに自分のカメラで生きている自分を撮影していました。

野口健さん

PROFILE:

野口健(のぐち・けん)さん

1973年、米ボストン生まれ。亜細亜大卒。99年5月、25歳でエベレスト登頂に成功し、7大陸最高峰登頂の世界最年少記録(当時)を樹立。その後の活動は清掃登山や戦没者の遺骨収集など多岐にわたる。

2021年12月13日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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