「アーツ千代田3331」と手前の公園をつなぐウッドデッキには弁当を食べる人らが集まる

 地域に根ざしたアートセンターとして親しまれてきた東京都千代田区の「アーツ千代田3331」が今月いっぱいで閉館する。区のプロジェクトの一環で2010年にオープン。区立中学校の旧校舎を活用し、アーティストらで構成する合同会社「コマンドA」が運営にあたってきた。同社の統括ディレクター、中村政人さんに話を聞いた。

 名称の「3331」は江戸一本締めのリズムに由来する。「手締めは、呼吸を合わせることで一体感を共有する何百年と続く動作。アーティストのための特別な場ではなく、市民の日常にアートが広がる拠点にしたかった」

 通算1000本近い主催イベントを開催してきた。特に印象深いのは、同じ区内でエリアが異なる「神田祭」と「山王祭」双方に光を当てた企画展だという。住民の元に足を運び、協力を仰いで実現した。「接点がほとんどなかった神田、山王、それぞれの氏子がここで手締めでひとつになった瞬間は本当に感動した」

開館からの取り組みを振り返る「3331によって、アートは『    』に変化した」展の様子。2月5日に終了=アーツ千代田3331提供

 作家とコレクターを直接つなぐアートフェアでは新たなマーケットの創出を目指した。アートプロジェクトとして地元の小学生と住民が年間通じて育てた朝顔は風物詩となり、屋上では有機野菜を栽培した。障害の有無にかかわらず多様な表現を公募する「ポコラート」は10回目を迎えた。「3331によって、美術館やギャラリーにあったアートが日常のものに変わり、ものとしてのアートができごととしてのアートに変わった。そう感じてもらえたのでは」

 閉館は区と同社の契約が満期を迎えるため。区は旧校舎の大規模改修後もアートセンターとして活用する方針だが、運営者は再募集する。「いったん閉じるが、時間をかけて培った地域との信頼や思いは残る。また帰ってきたい」と中村さんは語った。

2023年3月1日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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