
ぐるりと渦巻く導線の展示室を進むと視界が開け現れる「布の森」。染色工芸作家、柚木沙弥郎さん(99)による約40枚の染織が白い砂利の上で揺れている。長いもので約6メートル。布の目を透過する照明の淡い光が、柔らかさや張り、布それぞれの質感を伝える。
柚木さんは20代で柳宗悦の思想に触れ、「民芸運動」をリードした芹沢銈介に師事。リズミカルな幾何学パターンや、人の顔、鳥や植物といったモチーフを「型染」という技法を核に染め上げる。アルファベットや「!」といった見慣れた記号も柚木さんの手にかかると唯一の模様へと様変わりする。
赤、黄、紫、緑、藍色が好きだという。近づくと色と色の接点がわずかににじんでいたり、線が揺らいでいたり、手仕事の痕跡が一枚一枚に見つかる。気ままに並べたように見える図形も、引くと軽快なリズムが聞こえる。企画を担当した林綾野キュレーターは「太古から人と共にあった布の物質性や親和性が感じられる展示にしたかった」と語る。

染織にとどまらず立体作品、自宅のおもちゃ、72歳で描き始めたという絵本の挿絵も並ぶ。型染の技法を用いたビビッドなものが多いなか、85歳で出版した絵本「せんねんまんねん」の水彩による表現は、色の取り合わせの妙はそのままに、絵の具が流れ、にじみ、混ざりあい、伸びやかで目を引いた。
「かわいらしさ」で語られることも多い柚木さんの作品だが、林さんは「70年にわたり手を動かし築き上げた、ものの本質を捉えた強靱(きょうじん)な造形世界が土台にある」という。柚木さんの、いくつになっても歩みを止めない「life=暮らし」「LIFE=人生」が体感できる。東京都立川市のPLAY! MUSUEMで、30日まで。
2022年01月19日 毎日新聞・東京夕刊 掲載