横尾龍彦《アポカリプス》2001年、ミクストメディア、カンバス、縦2㍍×横2㍍、神奈川県立近代美術館蔵

【アートの扉】
横尾龍彦 アポカリプス
瞑想が生んだ躍動

文:平林由梨(毎日新聞記者)

現代美術

 東西の宗教や神秘的な思想と共に描いた画家、横尾龍彦。1960年代のシュールレアリスム風の作品から後期の抽象画、聖像彫刻まで、その足跡をたどる初の回顧展が巡回している。

 横尾は東京美術学校を卒業後、神学校に入学。受洗もした。創作に宗教的啓示を求め続け、「人智(じんち)学」の創始者、ルドルフ・シュタイナーの思想や禅にも傾倒、仏教にも接した。そして90年代後半ごろからは制作に瞑想(めいそう)を取り入れる。

 世界の終わりを記した聖書の「黙示録」を指す「アポカリプス」。横尾は画風を変えながら長くテーマに描いた。70年代後半から80年代半ばにかけては、抜けるように青い空と地上の混沌(こんとん)を対比させる構図でくり返し描いたが、本作は温かみのある色彩が一面を覆っている。神奈川県立近代美術館葉山の橋口由依学芸員によると、瞑想するようになって画面は明るく変化したという。「厄災の後にキリストが再臨する、その輝きを表しているよう」と語る。

 このころの制作の様子はこうだ。生成りの綿布を張った自作のカンバスを床に寝かせ、水をまく。白い水性の絵の具を大きな筆ですくって画面にのせ、砂を混ぜた顔料をまく。カンバスを傾け、揺らす。筆を入れ、また水をまく。天地は完成後に決めた。本作で使われたのは白、オレンジ、青、そして後に足したピンクのわずか4色だ。

 展示されている記録映像を見ると、描く姿はまるで筆を持った舞踏家。横尾は「自分が描くのではない。水が描く、風が描く、土が描く」と語った。無となる一瞬から生まれる躍動が吹き抜けていく。

PROFILE:

よこお・たつひこ(1928~2015年)

福岡市生まれ。東京美術学校(現・東京芸術大)日本画科を卒業。後に油彩に転じる。1960年代から国内、ヨーロッパ各地で個展を開く。日本とドイツに拠点を置き、晩年まで制作した。

INFORMATION

横尾龍彦 瞑想の彼方

4月9日まで、神奈川県葉山町一色2208の1、県立近代美術館葉山(046・875・2800)。月曜休館。7月15日から埼玉県立近代美術館に巡回予定。

2023年3月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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