エゴン・シーレ《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》1908年、油彩、金と銀の顔料、カンバス、レオポルド美術館蔵、Leopold Museum, Vienna

 びょうぶのような背景にごつごつとしたものが浮かぶ。深い紫色で立体的に描かれたものはタイトルにある通り、何か植物なのだろう。

 内面をえぐるような視線の自画像や、当時「わいせつ」と判断されたエロチックな作品で知られるシーレ、18歳の時の作品だ。因習にとらわれない絵画に挑まんとする決意が、きらめく炎のような花びらに重なる。

 慕っていた父を14歳で亡くしたシーレは、学業はふるわなかったが、絵はずばぬけていた。16歳でウィーン美術アカデミーに入学するが伝統的なカリキュラムに反発する。そんなシーレが父のように、友のように支えにしたのが画壇の中心人物、グスタフ・クリムト(1862~1918年)だった。

 在学中、クリムトが金箔(きんぱく)を用いて描いた「接吻(せっぷん)」を見て衝撃を受ける。本作では、「接吻」同様、正方形のカンバスを選んだ。機械的なタッチで描いた箔を貼ったかのような背景は、クリムトのそれと同じく奥行きはない。一方で、クリムトの華やかな金や優美な線はまねなかった。渋い銀色と硬い線には後の作品につながるシーレらしさが見える。この翌年、シーレはアカデミーを退学し、「新芸術集団」を結成する。

 ウィーンの眼科医、ルドルフ・レオポルド(25~2010年)は、独自の審美眼で「退廃的だ」と偏見すら抱かれていたシーレの作品を220点以上収集した。1900年前後のウィーンにうずまいた創造のエネルギーと、苦悩を抱えながら絵画に向き合った画家らの人模様、息づかいを伝える展覧会だ。

2023年2月27日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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