2001年撮影、23年プリントⒸGenpei Akasegawa / Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

【アートの扉】
赤瀬川原平 何を見つけた?

文:高橋咲子(毎日新聞記者)

写真

 2014年に亡くなった美術家で作家の赤瀬川原平さん。書斎にある16段の引き出しには、35㍉のポジフィルムがぎっしりと収められていた。1985年から06年に撮影されたスナップ写真は約4万点に及ぶ。

 その一つが本作。かの有名な「四谷階段」の写真が額装されて壁に立てかけられている。上ったら、下りるだけ。四谷怪談ならぬ四谷の階段は、無用の構造物「トマソン」の第1号だ。

 写真を前に、話が弾む。「展覧会のときのものですよね」「梱包(こんぽう)を半分といた状態だから、展示前かな」「緩衝材がドレスのひだみたいにエレガントです」。現実世界の四谷階段が撮影されて芸術的存在になり、半透明の緩衝材にくるまれて現実に戻る。さらにこの現実が撮影されて再び芸術になるという面白さがある。

 キュレーターの豊田佳子さんが、アーティストの伊藤存さん、風間サチコさん、鈴木康広さん、中村裕太さん、蓮沼執太さん、毛利悠子さんに依頼し、これら未発表写真から約120点を選んでもらい、展示している。

 赤瀬川さんは日常から何を見つけ、選んだ人は写真に何を見たのだろう。「写真に心をわしづかみにされた」という風間さんは、新聞紙の上に小さな物を並べて撮った1枚を見ながら、「物を拾う代わりに、シャッターを切ったのでしょう」と想像する。風間さんも道ばたで「出合い」があったとき、「拾わないとどうにかなっちゃう」という性格らしい。

 全て赤瀬川さんが撮った写真なのに、6人が選んだ写真は、驚くほどその人の作品を思い起こさせる。そんなところも楽しい。

PROFILE:

あかせがわ・げんぺい(1937~2014年)

横浜市生まれ。高松次郎らと共に結成した「ハイレッド・センター」や、「路上観察学会」の活動で知られる。尾辻克彦名で書いた「父が消えた」で芥川賞受賞。

INFORMATION

◇赤瀬川原平写真展「日常に散らばった芸術の微粒子」

3月25日まで、東京都港区六本木6の6の9のスカイ・ピラミデ(03・6447・4817)。未発表写真を収録した写真集「1985-1990 赤瀬川原平のまなざしから」(りぼん舎)も刊行。

2023年2月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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