2022年、40分(「ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台」展より)

 SNSを使えば、同じ気持ちでいる人に簡単に出会える一方、異なる立場の人と意見を交わすことはますます困難になっているとも感じる。そんな時代にあって、ウェンデリン・ファン・オルデンボルフは映像作品を通じて対話を試みる。旧植民地との関係や、ナショナリズム、フェミニズムなどの歴史が、現在とどうつながっているのか探ろうとする。

 作品は複数性に満ちている。初期作を除き脚本はなく、対話や語りが一つの方向に収れんされない。画面は分割され、二つの映像が重なり合う。展示空間においても、別の上映スペースや観客の姿が視界に入るようになっている。複数の声や他人の存在を感じながら共に空間にいることを、作品でも展示でも、実践している。

 本作は、展覧会のために日本で制作した新作だ。戦前の女性の声に関心を持った作家が、出自も政治姿勢も異なるが「愛について悩み、書いた」林芙美子と宮本百合子、そして宮本と同居していたロシア文学研究者で同性愛者の湯浅芳子に焦点を当てた。女性の問題に強い関心を持った3人だが、見つめる景色は一様でない。

 林の旧居などを舞台に、参加者たちは彼女たちの手紙や小説を朗読し、語り合う。プロの役者ではないのに、その姿は、とてもリラックスして見えた。自身も参加した学芸員の田村万里子さんいわく、作家は事前に「なぜあなたが必要なのか」を丁寧に説明するといい、自分が肯定されていると感じられたという。カメラは休憩時を含めて回しっぱなし。「(みんな)ほぼ初対面でしたが、驚くほど話しやすい空間でした」と話していた。

PROFILE:

Wendelien van oldenborgh

1962年、オランダ・ロッテルダム生まれ、ベルリン在住。伊ベネチア・ビエンナーレのオランダ館代表など数々の国際展に参加。

INFORMATION

ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台

2月19日まで、東京都江東区三好4の1の1の東京都現代美術館(ハローダイヤル050・5541・8600)。月曜休館。期間中は読書会や「オープンミーティング」などのイベントも実施。

2023年1月30日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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