フィンランド ヤルヴェンパー 下絵:鴻池朋子 語り:Maarit 制作:沼田容子 2019年

 これを「鴻池朋子の作品」と言うべきかは、分からない。作品写真の横に記したように、作家以外の2人が関わってできたものだからだ。

 まず、鴻池さんが聞いた個人の話を下絵に起こす。この下絵を型紙に、語った本人か別の人が、布を縫い合わせ、刺しゅうをしてランチョンマット大に仕上げる。語るのは、各地の展覧会先で出会った人々。「物語るテーブルランナー」というプロジェクトだ。

 湖畔でマットを洗う人、干す人。岩場では小さい子がビスケットをほおばる。向こうにはボートも見える。水は冷たそうだが、青く澄んでいる。フィンランドのマーリットさんが語った、子供のころの夏の思い出。「一人一人に起こっている、ささやかで素晴らしく驚くべき物語」(鴻池さん)が、針と糸とおしゃべりで描かれている。

 「物語るテーブルランナー」はこの夏、若手作家の弓指寛治さんが東日本大震災で津波被害を受けた宮城・石巻で制作、展示していた。鴻池さんから勧められたそうだが、とうとう「鴻池」という名前も消えてしまったと驚いた。

 開催中の「みる誕生」展では、美術館の所蔵品や国立ハンセン病療養所・菊池恵楓園(熊本)の入所者が描いた絵など、他人の手によるものが多数並ぶ。自身の作品も展示するが、作家がキラキラ輝く「美術館マジック」には関心が薄いように見えた。作品も、展覧会も、対話を好む鴻池さん自身も、多数の人が「参加」してできあがっていくのが面白くて仕方ないようだ。

PROFILE:

こうのいけ・ともこ

1960年、秋田県生まれ。さまざまな地上の物質、地形や天候、観客の身体をも作品空間に取り込み、これまでの芸術を学際的に検証。問い直しを試みている。

INFORMATION

みる誕生 鴻池朋子展

2023年1月9日まで、静岡市駿河区谷田53の2、静岡県立美術館(054・263・5755)。月曜(1月2、9日は除く)と、12月27日~1月1日休館。

2022年12月5日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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