小茂田青樹《雪日(せつじつ)》1927年、紙本著色、縦38.3センチ×横56センチ

【アートの扉】
発見!お宝 岡田美術館/3
小茂田青樹 雪日 冬の静けさと温かさ

文:稲墻(いながき)朋子(岡田美術館学芸員)

日本美術

 真っ白い雪が、木に、地面に積もっている。枝は複雑に絡み合い、後方へも伸びて暗い空へ溶け込んでいくようだ。よく見ると、冬らしくふっくらとした体つきのスズメが3羽、細い枝にとまって右の方を向いている。画中に見えるたくさんの白い粒は降りやまない雪なのか、飛んできたスズメが落とした雪の粉か。あるいは、雪の下にはすでに小さな梅の花が咲いているのかもしれない。

 作者の小茂田青樹は、大正から昭和の初めにかけて活躍した日本画家。「雪日(せつじつ)」は36歳の作だ。この絵は、画室の前にあった梅の木を、画家が雪の日に写したという写生図が元になっている。さらに枝を増やし、スズメと粉雪を足して、より動きのある画面に仕上げている。

 冬は花の種類が減ってしまうぶん、日本の絵画では雪が題材として好まれた。和歌の世界でも、雪を花に見立て、その美しさや春へのあこがれを詠んだものが多い。見慣れた景色を一変させる銀世界は、長い冬に疲れた人々の心と目を楽しませる、天の恵みであったのだろう。本作にも、少なからずこうしたイメージが重ねられているのではないだろうか。

 青樹の絵には、鳥や虫、動物など、生きものが描かれることが多い。いずれも愛らしく、対象を大切な存在としてとらえ、丁寧に筆を運んでいることが伝わってくる。自然を深く観察し、生命の本質を描こうとした青樹の作品は、静かで澄み、どこか温かい。「雪日」は、まさに青樹画の特質を表す、静かでぬくもりの感じられる名品だ。

PROFILE:

おもだ・せいじゅ(1891~1933年)

埼玉県川越町(現在の川越市)に生まれた日本画家。写実と装飾性を融合した、詩情あふれる作品を発表した。3歳年下の速水御舟は生涯の友であり、良きライバルだった。

INFORMATION

岡田美術館(0460・87・3931)

本作は12月18日までの「花鳥風月 名画で見る日本の四季」(後期:秋冬編―光琳・歌麿・春草など―)展で展示中。会期中無休。神奈川県箱根町小涌谷493の1。

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