1967年、陶、縦70㌢×横80.5㌢×奥行き65㌢、川崎市岡本太郎美術館蔵Ⓒ岡本太郎記念現代芸術振興財団

【アートの扉】
岡本太郎 午後の日
矛盾、内包する「笑顔」

文:平林由梨(毎日新聞記者)

現代美術

 真っ黒な線がうねり、どぎつい原色が不協和音を奏でる。映像資料などを含む約300点から岡本太郎の幅広い活動を見渡す大回顧展。作品同士がぶつかり合う展示室は「調和ではなく、対立や矛盾の衝突こそがパワーを生む」と唱えた岡本の代名詞「対極主義」を体現するようだ。

 そんな空間でひっそりと、エネルギーの渦から逃れるように、少しだけ奥まったところからこちらを見やっていたのが本作だった。陶でかたどられた、穏やかに笑う子ども。向き合ってみると、ぽっかりと開いた両目が見返してくる。ほおづえをついているように見えた両手は、仮面の下の正体を暴かれまいと隠そうとする手にも見えるし、一方で、自身の顔面を引き裂こうとしている手にも見える。

 この作品を手がけた1967年は岡本にとっては節目の年だった。メキシコのホテルから打診を受け、後に東京・渋谷駅構内に掲げられ、広く知られることになる巨大壁画「明日の神話」に着手した。また、大阪万博のテーマ展示プロデューサーに任じられたのもこの年。万博で岡本は「ベラボーな神像」としての「太陽の塔」を打ち立て、科学的進歩がもたらす素朴な「豊かな未来」にアンチテーゼを突きつけた。

 この顔のモチーフは、素材や大きさを変えていくつか制作された。その一つは岡本が眠る多磨霊園の墓碑にもなっている。「芸術は爆発だ」のような派手なパフォーマンスで沸かせるだけでなく、死後四半世紀が過ぎてもなお、多くの人をひきつける思想やことばも残した岡本。一筋縄ではいかないこの「笑顔」はそんな厚みを表しているようだった。

PROFILE:

おかもと・たろう(1911~96年)

川崎市生まれ。30年に絵画を学ぶため渡仏し、20代の約10年をパリで過ごす。当時の作品は戦災ですべて焼失したとされていたが、近年パリで見つかった3点の油彩画が岡本の作品と推定され、初めて一般公開されている。

INFORMATION

展覧会 岡本太郎

12月28日まで、東京都台東区上野公園8の36、東京都美術館(ハローダイヤル050・5541・8600)。展示は月曜休み。2023年1月14日から愛知県美術館に巡回予定。

2022年11月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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