江戸時代中期(18世紀初頭)、高さ11.5㌢、口径20.2㌢、底径9.8㌢、重要文化財

 幹が左右に広がる紅葉を描いている。葉が緑から黄、赤へと色づき、秋が深まる様を表しているようだ。中をのぞくと、木々の間に川が流れ、本作の主題が紅葉の名所・竜田川であることがわかる。「ちはやぶる神代も聞かずたつた河 から紅にみずくくるとは」(古今和歌集)と在原業平が詠んだように、奈良県を流れる竜田川は古くから和歌に詠まれ、絵画や漆器、染織品など多くの美術品に表現され、親しまれてきた。本作では、外側の紅葉から「竜田川」を連想させ、内側の水流によって明示するデザインとなっている。大きく反った器の縁を紅葉と流水の形に切り取り、枝や葉の間に透かし彫りを施し、器全体に奥行きを生み出したのである。

 内側の樹(き)や水流の太い線の下に見当のための彫り線が残るので、乾山は慎重に制作を進めていたようだ。さらに、輪郭だけ、あるいは葉脈だけが残る葉があることから、絵付けの段階でも変更を重ね、苦心していた様子がうかがえる。「透彫反鉢」は、乾山焼の中でも人気の器種で、菊や藤といった類品が複数知られるが、本作のように制作過程の模索の様子を感じられるものは他にはない。

 乾山が数え年51歳の時に刊行された百科事典「和漢三才図会(わかんさんさいずえ)」に、山城(やましろ)国の土産物として乾山焼が紹介されている。使う人を楽しませるデザイン性の高い器が人気となったのであろう。本作も見る角度によって紅葉と流水の重なりが変化し、私たちにさまざまな表情をみせてくれる。この秋、美術館でも紅葉狩りを楽しんでいただきたい。

PROFILE:

おがた・けんざん(1663~1743年)

江戸時代に京都で活躍した陶工。兄は絵師で有名な尾形光琳(1658~1716年)。野々村仁清に作陶の技術を学び、数え年37歳で窯を開く。晩年は陶器だけでなく、絵画も制作した。

INFORMATION

岡田美術館(0460・87・3931)

本作は12月18日までの「花鳥風月 名画で見る日本の四季」(後期:秋冬編―光琳・歌麿・春草など―)展で見られる。会期中無休。神奈川県箱根町小涌谷493の1。

2022年11月7日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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