1883年、木版、色刷り、インディゴ抜染、木綿、縦86㌢×横98㌢

 モリス柄といえばこれ、というほど人気の柄だ。ツグミがつまむイチゴはどんな味だろう。

 モダンデザインの父、英国のウィリアム・モリス(1834~96年)は手仕事による上質な室内装飾を手がけたことで知られ、けん引した「アーツ・アンド・クラフツ運動」では誰もが身近な生活の中で美を享受できる社会を目指した。

 この布地は約140年前に「モリス商会」が手がけたもの。モリスの商業主義への反発は深い藍色に表れた。すぐ退色する粗悪品を量産する資本家に対抗し、モリスは天然素材を重用した。自ら指を青く染めて実験を繰り返し、インディゴによる「抜染法」を復活させた。ここではさらに24もの版木を使って色を重ねている。

 人々の生き方をデザインで変えようとしたモリス。多くの労働者が機械のように働かされた当時の英国にあって工房で働く仲間の労働環境や生活には気を配った。しかし、やがてモリスはジレンマに陥る。妥協せず、品質、素材、働き方にこだわれば、製品の価格も上がるからだ。本展を企画した府中市美術館の音ゆみ子学芸員は「当時、実際にこうした布を生活に取り入れられたのは裕福な家庭だけでした。モリスはこの矛盾に葛藤した」と語る。挫折したモリスは社会主義運動や執筆活動へと向かう。このジレンマはしかし、次の展開も生んだ。本展ではモリスの意志を継ぎながら、機械化することでデザインを民主化しようとしたアメリカでの運動にまで目を配った。

 理想と現実のはざまで手を動かし、酸いも甘いもかみわけた、そんなモリスのイチゴ。じっくり味わいたい。

 ◆メモ
 ◇アーツ・アンド・クラフツ運動
 19世紀英国で始まったデザインの革新運動。モリスの理想「すべての人の生活に美を」のもと、自然との接し方、働き方、社会のあり方にまでつながる問題としてデザインを捉えた。

INFORMATION

アーツ・アンド・クラフツとデザイン ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで

12月4日まで、東京都府中市浅間町1の3の市美術館(042・336・3371)。月曜休館。

2022年10月31日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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