2022 ⒸTsuyoshi Hisakado,Courtesy of Ota Fine Arts 鐘ケ江歓一氏撮影

【アートの扉】
久門剛史 Verse#1
自然が刻むリズム

文:高橋咲子(毎日新聞記者)

現代美術

 展示室に入ると、引き締まった空気に包まれる。イーゼルに立てかけた大小の白い画面、ガラス板が載ったスツール、白い盤面のテーブルなどで構成される「Verse #1」。白い画面は丸い穴があき、光が円状に画面と画面を結んでいる。眺めるうち、いくつもの円環が作品のなかにあることに気づく。高い位置にある球、(写真外にある)一番低いスツールの上のオブジェ。ガラスの板には円状のスリットが入り、映り込んだ光の円が土星の輪のように輝く。

 個展タイトルの「River」について、度々氾濫するアトリエ近くの川のことが頭にあったと久門は話す。「人間の尺度にそぐわないものを、〝災害〟とか〝バグ〟と見なしているのではないか。川からすれば、合理的な形に戻ろうとしているだけかもしれないですよね」

 個展と同じタイトルがつけられた作品「River」は、27枚のシルクスクリーンから成り、円周率の数字の列が円状に印刷されている。これまでの作品にも繰り返し登場した美しい円のモチーフは今回、ちぎられた後に張り合わされている。全体に目を転じれば、つぎあわされた部分が、大きな川のように蛇行していた。小さな韻律が転回しながら集まり、一つの世界をかたちづくるさまを本展は想像させる。

 愛知・豊田市美術館で、これまでの集大成的個展を開催したのが2020年。音や動きを取り込んだ作品が印象的だったが、今回は静けさに満ちていた。近年触れた能の、静止した構えや足の運びには「時間が持つ豊かさがある」と話す。次の10年に向け、歩みを進めている。

PROFILE:

ひさかど・つよし

1981年、京都府生まれ。京都市立芸大大学院彫刻専攻修了。会社員生活を経て、2013年から本格的に制作活動を再開。20年には初の大規模個展「らせんの練習」(豊田市美術館)を開催した。

INFORMATION

久門剛史「River」

10月8日まで、東京都港区六本木6の6の9、オオタファインアーツ(03・6447・1123)。日、月、祝日休廊。同区六本木7の21の24のギャラリー「7CHOME」で「Recent Works」も同時開催。

2022年9月26日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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