1931年、工学院大学図書館

 1930年から45年の間、東北を歩き、土地の文化に着目した人がいる。工芸品のデザインや指導に携わった、ドイツの建築家、ブルーノ・タウト、民芸運動を主導した柳宗悦、フランスのデザイナー、シャルロット・ペリアン。さらに、青森生まれの建築家・民俗学研究者の今和次郎、銅版画家の純三兄弟に、福島生まれの洋画家・吉井忠。外から内を、内から内を見る複数の「まなざし」を展覧会で紹介している。

 本作は、純三が兄和次郎に宛てたはがきだ。細かく建物や人が描かれ、木には「アカシヤ」「ポプラ」「梅」、建物には「硝子ナシ、細カイ網張り」、柵には「用の済んだ選挙ポスター」といちいち注釈が付けられている。

 純三は13歳で上京し、絵の世界で活躍した。関東大震災後に帰郷し、地元の芸術活動を支援。兄と共に現代の社会風俗を調査・記録した「考現学」を発展させたという。

 純三や和次郎はなぜ、土地の風俗を見つめたのか。展覧会に携わった建築理論研究者の黒石いずみさんは「雪かきや野菜づくり、家のしつらえ……。人々はある理屈をもって、その場所なりの生き方をしている」と指摘する。タウトや柳らは、デザインを通してある種の「モダニズム」をもたらしたが、今兄弟は生活を見つめることで、目に見える景色の背後にある理屈を探し、土地で生きる人々にとってよりよい「形」とは何か考えようとしたのだ。

 純三が描いた冬の街頭風景(「青森県画譜」)も、魅力に富む。一つの画面に10以上の風景が描かれ、その一つ一つに雪の生活があるからだ。

PROFILE:

こん・じゅんぞう(1893~1944年)

青森県弘前市生まれ。上京後、洋画家として活動する。資生堂意匠部に勤務するが、兄和次郎の意に従い、青森市へ。エッチングや石版など版画研究を深め、棟方志功ら純三を慕う若い芸術家がアトリエを訪れた。

INFORMATION

東北へのまなざし1930-1945

9月25日まで、東京都千代田区丸の内1の9の1の東京ステーションギャラリー(03・3212・2485)。月曜休館(9月19日のぞく)。

2022年8月29日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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