1980年 タイプCプリント 縦20・4㌢、横25・4㌢ 栃木県立美術館蔵

 ここはニューヨークのマンハッタンを望むリバティーアイランド。太陽を背後に従えた自由の女神が、まるで金環食のようなまばゆい光輪に包まれています。

 この作品は、最も原初的な写真技法といわれるピンホールカメラを用いて撮影されたもの。薄い銅板に開けられた小さな針穴を通った太陽光が、約15分の露光の間に乱反射して、宝飾品のような美しいリングを描き出しました。太陽を背負った逆光の状態でも、被写体が影にならないのも、レンズのないピンホールカメラによる長時間露光ならではの面白さです。

 ブラジルのサンパウロで開かれた国際美術展に参加した山中信夫は、帰国の途上、友人の住むニューヨークのロフトに滞在して、この作品を制作しました。使用したのは、8㌢ほどの厚みを持たせた幕の内弁当サイズのハンディーな手づくりピンホールカメラ。大判フィルムが引き伸ばしなしで密着焼きされています。

 5月のさわやかな日差しの下、38点の「マンハッタンの太陽」が制作されました。そのほとんどは摩天楼と白色の光輪との組み合わせですが、この作品での光輪は黄金色に輝いています。美術では太陽は光源として扱われますが、この作品では地球にとって不可欠な熱源としての太陽が、迸(ほとばし)るエネルギーとなって表現されているのです。

 美術における写真が重視される時代を切り拓(ひら)きながらも、その後、再び訪れたマンハッタンで、山中は34歳の若さで生涯を閉じました。

PROFILE:

やまなか・のぶお(1948~82年)

大阪生まれ。多摩美術大油画専攻に入学するも、学生運動の最中に除籍。美術家共闘会議の仲間と自主ゼミで学び、多くの展覧会に参加。パリの国際美術展に参加した帰国途上で客死。

INFORMATION

栃木県立美術館(028・621・3566)

9月4日まで開催中の「没後40年 山中信夫☆回顧展」でピンホールカメラと共に展示。月曜休館。宇都宮市桜4の2の7。

2022年8月1日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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