劇的な空の描写、黒い雲と対照的な白い道が、写真に荘厳な雰囲気を与えている。防寒用の角巻きを身にまとい、雪道を歩く4人。丸まった背中には、重い荷物と、厚く重ねた衣服があると想像できる。垂れこめた雲の間から差し込むのは、太陽の光。後ろ姿を捉えることで浮かぶのは、寒さや風にあらがい前に進もうとする姿だ。
青森市生まれの小島一郎(1924~64年)が津軽の人々に出会ったのは、戦後中国から復員し、虚脱感から抜け出せなかったころだったという。アマチュア写真家として津軽や下北方面を歩いた時期に、この作品は撮影された。厳しい自然環境のなか、生きるために労働する人たち。多くの死を見たであろう小島が、津軽で得たのは生の実感だったのだろうか。
東京都写真美術館の浜崎加織学芸員は、新型コロナウイルスの感染が拡大し、死を突き付けられる機会が増えたころ「メメント・モリと写真」展を企画したという。「単に死を意識するのではなく、振り返って自分の生をより充実させることができないか考えた」と話す。
「メメント・モリ」という言葉を切り口に、収蔵作品などから企画展を編み、小島のほか、ホスピスを撮影したマリオ・ジャコメッリ、戦地に赴いたロバート・キャパや澤田教一、死とエロスを捉えた荒木経惟、代表作「メメント・モリ」がバブル前夜に衝撃を与えた藤原新也らの作品を展示している。
ごく個人的な事象でありながら、普遍的に私たちに迫り来る死。写真に描かれるのは、その死が照らす生のありようだ。
◆メモ
◇メメント・モリ
ラテン語で「死を思え」を意味する言葉で、日常が死と隣り合わせであることを示す警句。古くから絵画のモチーフとして用いられた。
INFORMATION
TOPコレクション メメント・モリと写真
9月25日まで、東京都目黒区三田1の13の3の東京都写真美術館(03・3280・0099)。月曜休館。ただし、月曜が祝休日の場合は開館し、翌平日休館。
2022年7月11日 毎日新聞・東京夕刊 掲載