「ワニがまわる タムラサトル」展 2022年 国立新美術館 展示風景 撮影:金田幸三

 かすかなモーター音と共に巨大な空間で回り続ける無数のワニ。その数、約1100。ほとんどは腹部に取り付けられた軸を中心に水平方向に回転する。一番大きい緑色のワニは体長約12メートル、床にへばりつくように回る小さいワニたちは10~15センチ。ウレタンや発泡スチロールで作られたカラフルな大小のワニがさまざまな速度でひたすら回る、そんなインスタレーション作品だ。

 現代アートは作品に込められたコンセプトを重視する。目に映るものを楽しむだけではなく、それが内包する意味を読み解くことが求められる。そのためには美術史や社会をめぐる知識が必要だ。「現代アートって難しい」と言われるゆえんでもある。

 そんな現代アートの約束をよそにタムラさんは「ワニが回る理由に答えはない」と言う。それがワニであることにも、回ることにも、意味はない、と。回るワニは「電気を使った芸術装置」という課題に行き詰まった当時大学3年のタムラさんの、「朝起きて最初に思い描いたものを作る」という決心と、その時のひらめきが生んだ産物だ。1体目を作ったタムラさんはその後、約30年かけて色、サイズ、回転速度を変化させながら回るワニを作り続けた。1000体を超えた答えを持たないワニたちの姿は、壮大で不思議な光景を目の当たりにして驚く、というシンプルな喜びを肯定する。

 国立新美術館はアートになじみのない人にも美術館を身近に感じてほしいと本展を無料で見せている。ワニを見て感じた「!」や「?」はきっとそのきっかけになるだろう。

PROFILE:

たむら・さとる

現代美術家。1972年、栃木県生まれ。95年、筑波大芸術専門学群総合造形卒。まわるワニの他、「後退するクマ」「登山する山」「バタバタ音を立てる布」など、立体作品やインスタレーションを制作、発表している。

INFORMATION

ワニがまわる タムラサトル

7月18日まで、東京都港区六本木7の22の2の国立新美術館(ハローダイヤル050・5541・8600)。入場無料。火曜休館。

2022年6月27日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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