フリーデル・ズーバス《捕らわれたフェニックス》 1982年 縦182.9センチ、横182.9センチ オードリー&デイヴィッド・マーヴィッシュ蔵Ⓒ2022/Friedel Dzubas/ARS,New York/JASPAR,Tokyo G2749

 タイトル通り、「色の海を泳ぐ」展覧会だ。1950年代後半から60年代にかけて米国を中心に見られた抽象絵画の潮流、カラーフィールド・ペインティング。人の身長より大きな画面が並び、色の形や、色と色が織りなす関係を体全体で味わうことができる。

 本作は、深海のようにぐっと照明が落とされた展示室にある。右上のピンクは、ほんのり上気したほおのよう。その隣で、深い紫や茶が逆三角の形を作ってつややかに光り、周囲からは黒や濃紺、ブルーグレーに灰色が押し寄せる。色の塊の周囲はかすれていて、湿潤な大気を思わせる。同じ作者、ズーバスの「フェーン」は縦2メートル、横5メートル以上もある作品。濃いグレーに、少しずつニュアンスの違う層がたなびき、大作にもかかわらず軽やかだ。

 カラーフィールドの作家にとって大切な「色」。画家たちは、新しい絵の具としてアクリル絵の具「マグナ」を用い、色をコントロールしていた。ズーバスの鮮やかな発色は、キャンバスに下地を塗り、その上にアクリル絵の具を置くことで可能になったという。

 「何を描くか」よりも「どう描くか」が重要視されたカラーフィールド絵画。ズーバスとアトリエを共有していたという女性作家、ヘレン・フランケンサーラーはステイニング(にじみ込み)技法で描き、フランク・ステラは四角ではなく凹凸のある形のキャンバスを用い、また、ジュールズ・オリツキーはスプレーガンで色を噴霧した。絵画の新たな可能性を追求した代表的な9人の作品を紹介する、日本で初めての展覧会だ。

PROFILE:

Friedel Dzubas(1915~94年)

ベルリンに生まれ、39年にアメリカへ移住。コーネル大学などで教職にも就いた。75年にボストンのショーマット銀行の依頼で描いた壁画「黙示録/交差」はアメリカ最大の抽象絵画のひとつだという。

INFORMATION

カラーフィールド 色の海を泳ぐ

9月4日まで、千葉県佐倉市坂戸631のDIC川村記念美術館(ハローダイヤル050・5541・8600)。月曜(7月18日のぞく)と7月19日休館。事前予約制。

2022年6月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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